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第627話

目が覚めると、もう陽は完全に昇っていた。 頭痛いし、腰も痛い…。 布団から顔だけ出してぼーっとしていると、リビングの方からいい匂いが漂ってくる。 「せーんぱいっ♡おはよう♡ご飯できたよ♡」 「ん〜……」 寝室の扉が開いて、愛しい恋人の姿が見える。 城崎はチュッと俺の唇にキスをして、布団を捲った。 「……寒い。」 「もう外は暖かいですよ。ほら、今日はデートするって、約束したじゃないですか!」 「分かってる……けど、もうちょっと……」 「朝ごはん冷めちゃいますよ!せっかくパンケーキ作ったのに!」 「!!」 パンケーキと聞いて、すぐに体を起こした。 城崎はそんな俺を見て苦笑い。 だって甘いものには抗えないだろ…。 「俺よりパンケーキなんだ?」 ダイニングに着いてパンケーキを頬張っていると、城崎は頬杖をつきながら俺にそう聞いた。 そうじゃない、と言いたいところだけど、デートだと言われて起きなかったのに、パンケーキと言われて速攻起きた手前、否定できない。 「…………」 「先輩ひどい。」 「…………ごめん。」 「嘘ですよ。しょーもないことで拗ねてごめんなさい。」 城崎は俺の口元についたクリームを指ですくって、ペロッと舐めた。 あー、またこうやってキュンキュンすることばっか…。 「無意識にやってんの?」 「ん?あぁ…。無意識じゃないですよ。先輩に意識してほしくてしてます。」 「……んだそれ。」 自分で聞いたくせに、返答に照れる。 城崎は策士だ。 「それより先輩、何時に行きますか?」 「ん〜……、去年と一緒?」 「わかりました。敢えて駅で待ち合わせしますか?」 「嫌。一緒に行く。」 「〜〜っ!先輩っ!かわいい!!」 「?!」 せっかく一緒に住んでるんだから、一緒に行きたいって思うのは当たり前じゃねえの? ぎゅうぎゅう抱きしめられながら、頭にはてなマークが浮かぶ。 「着替える…。」 「あ、俺も。じゃあ、リビングで待ち合わせでいいですか?」 「ん。」 「またあとで♡楽しみにしてます♡」 両頬にチュッチュッとキスされて、城崎は自室に姿を消した。 俺はキスされた頬に触れたまま、しばらく固まっていたが、間も無く洗面所で容姿を整え、着替えるために自分の部屋に入った。 クローゼットを開け、何着か候補となる服を並べ、そして迷う。 「何がいいんだろ…。」 去年はこんなにも悩まなかった気がする。 今は城崎に可愛いとか、格好良いとか思って欲しい気持ちが強くて、だからいちいち迷ってしまう。 「これ…、城崎好きかな…?」 Tシャツにクリーム色のブルゾン、淡い色のデニムパンツ。 格好良い系というよりは可愛い系。 時計とネックレスをつけて、リビングに向かった。

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