628 / 1069

第628話

リビングに入ると、城崎は既にいた。 「先輩かわいい〜♡」 「城崎…、それ……」 「あ、覚えてますか?」 そりゃあ覚えてる。 城崎は初デートの時と同じ、チャコールグレーのセットアップ。 長身で抜群のスタイルに似合ってて、女の子たちがすれ違うたびに振り返ってたのが印象的だ。 ただ去年と違うのは、お揃いのネックレスにお揃いの腕時計。 事前に何も言ってないのに、お揃いのものを付けてくれているのが嬉しかった。 「行こっか。」 「うん。」 出る前にキスをして、手を繋いで家を出た。 あー、ヤバい。 まだデートは始まったばかりなのに、心臓がドキドキする。 「昨日のシャンパン、美味しかったですね。」 「…うん。」 「案の定、先輩は酔っちゃいましたけど。」 「…うん。」 「すげーエッチだし、可愛いし、骨抜きにされちゃいました。」 「…うん。」 「…………先輩、もしかして緊張してる?」 「!!」 顔を覗き込まれて、びっくりして背筋がピンっと立つ。 やべー。上の空で返事してたのバレた? 「き、聞いてなかったわけじゃ…!」 「わかってますよ。ていうか、もう1年も付き合ってるのに今更緊張って…(笑)」 「仕方ねーだろ!?なんか……、いつもより…格好良く見えんだよ……。」 「…っ///」 本音を言うと、次は城崎が照れて言葉を失った。 何だこれ。俺たちめちゃくちゃバカップルじゃん。 「周りから、どう見えてんだろうな、俺たち。」 「わかる人はわかるでしょ。お揃いの時計とかアクセ付けてて、手繋いでたら。」 「バレたらダメなんじゃ…」 「俺はいいってば。会社の人にさえバレなきゃいいでしょ?嫌?」 「嫌じゃない…。」 城崎が他の女の子に迫られたら嫌だし…。 じゃあ俺と城崎が付き合ってるって、分かってた方がアプローチしてこないかも…? いやいや、逆に相手が男だって分かったら、熱烈にアプローチしてくる可能性もあるのか…? 「なに百面相してるんですか?」 「んー…、城崎取られたくないなって…。」 「そんな可愛いこと言ってたら、今すぐ襲っちゃいますよ?」 「本気で言ってんだけど!」 「大丈夫。取られるもなにも、俺は先輩以外に興味ないから。先輩しか愛せないですよ。」 うぅ…。 この顔でそのセリフは強すぎる…。 「周りの目、気にしないでデートしたい…。」 「俺はあんまり気にしてないですけど。」 「俺は気になる…。」 「早く偏見のない世の中になるといいですね。」 「うん…。」 めちゃくちゃ甘えたい気持ちを抑えて、城崎と駅まで向かった。

ともだちにシェアしよう!