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第629話

電車内は通勤ラッシュほどではないけど、結構混んでいる。 混雑に乗じて、少し城崎に身を寄せてみる。 「………」 「……可愛いんですけど。」 「……だから何。」 「……襲ってもいいですか?」 「ダメに決まってんだろ。」 「痛っ!」 周りに聞こえないようにヒソヒソ声で話していたら、城崎がとんでもないこと言うから、思わず背中を叩いた。 こんなところで触られて、バレない自信ないし…。 じゃなくて!俺のバカ!! 道徳的に人前でそんなことしてちゃダメだ。 心の中で自分自身につっこむ。 「今日の先輩、可愛すぎて無理…。」 「そんなこと言ったら、城崎だって格好良すぎて無理だし…。」 「……ぷっ(笑)同じこと思ってるんですね、俺たち。」 嬉しそうに笑う表情に胸がキュゥっとなる。 手をぎゅっと握ると、城崎は俺の耳元に顔を寄せた。 「行き先、ホテルに変えますか?」 「………っ!!変えない!!!」 「え〜?」 「俺は今日、純粋にデートを楽しみにしてたんだから!」 冗談っぽい言い方してるけど、YESって言ってたら絶対ホテルに変わってた。 どうせ後半のおうちデートで、めちゃくちゃするくせに…。 どんだけ絶倫なんだよ、ほんと…。 「水族館、俺も楽しみにしてますよ?」 「ほんとかよ…。」 「超楽しみです。あと、去年よりもっと先輩のこと楽しませてみせます♡」 「ふーん…。どうやって?」 「もちろんそれは内緒です。」 「ケチ。」 ぷぅっと頬を膨らませると、城崎は俺の頬を指で突いた。 変な音ともに空気が漏れて恥ずかしがる俺を見て、城崎は楽しそうに笑っている。 軽く肩を小突くと、「ごめんなさい。」と口を動かして謝った。 本気で怒っているわけじゃないし、すぐに許すつもりだったけど、なんとなく条件を出してみる。 「許してあげるから、あとで俺のお願い聞いて?」 耳元でそう伝えると、城崎はきょとんとした顔で俺を見たあと、優しい顔で笑った。 「いいですよ。なんでも聞いてあげます。」 「本当に?なんでも聞いてくれんの?」 「かわいいお願いだったら、嬉しいですけど?」 「ん。わかった。」 何お願いしようかな? 今して欲しいこと、伝えてみようかな? 多分これお願いしても城崎は怒らないと思う。 寧ろ、喜んでしてくれそうな気もするな。 そのあと他愛もない話をしながら数十分。 電車は目的地の駅へと到着した。

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