629 / 1069
第629話
電車内は通勤ラッシュほどではないけど、結構混んでいる。
混雑に乗じて、少し城崎に身を寄せてみる。
「………」
「……可愛いんですけど。」
「……だから何。」
「……襲ってもいいですか?」
「ダメに決まってんだろ。」
「痛っ!」
周りに聞こえないようにヒソヒソ声で話していたら、城崎がとんでもないこと言うから、思わず背中を叩いた。
こんなところで触られて、バレない自信ないし…。
じゃなくて!俺のバカ!!
道徳的に人前でそんなことしてちゃダメだ。
心の中で自分自身につっこむ。
「今日の先輩、可愛すぎて無理…。」
「そんなこと言ったら、城崎だって格好良すぎて無理だし…。」
「……ぷっ(笑)同じこと思ってるんですね、俺たち。」
嬉しそうに笑う表情に胸がキュゥっとなる。
手をぎゅっと握ると、城崎は俺の耳元に顔を寄せた。
「行き先、ホテルに変えますか?」
「………っ!!変えない!!!」
「え〜?」
「俺は今日、純粋にデートを楽しみにしてたんだから!」
冗談っぽい言い方してるけど、YESって言ってたら絶対ホテルに変わってた。
どうせ後半のおうちデートで、めちゃくちゃするくせに…。
どんだけ絶倫なんだよ、ほんと…。
「水族館、俺も楽しみにしてますよ?」
「ほんとかよ…。」
「超楽しみです。あと、去年よりもっと先輩のこと楽しませてみせます♡」
「ふーん…。どうやって?」
「もちろんそれは内緒です。」
「ケチ。」
ぷぅっと頬を膨らませると、城崎は俺の頬を指で突いた。
変な音ともに空気が漏れて恥ずかしがる俺を見て、城崎は楽しそうに笑っている。
軽く肩を小突くと、「ごめんなさい。」と口を動かして謝った。
本気で怒っているわけじゃないし、すぐに許すつもりだったけど、なんとなく条件を出してみる。
「許してあげるから、あとで俺のお願い聞いて?」
耳元でそう伝えると、城崎はきょとんとした顔で俺を見たあと、優しい顔で笑った。
「いいですよ。なんでも聞いてあげます。」
「本当に?なんでも聞いてくれんの?」
「かわいいお願いだったら、嬉しいですけど?」
「ん。わかった。」
何お願いしようかな?
今して欲しいこと、伝えてみようかな?
多分これお願いしても城崎は怒らないと思う。
寧ろ、喜んでしてくれそうな気もするな。
そのあと他愛もない話をしながら数十分。
電車は目的地の駅へと到着した。
ともだちにシェアしよう!