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第632話
「すげぇ。」
トイレから出て展示エリアへ向かう。
まずはトンネル型の水槽がお出迎えだ。
「先輩、去年も同じ感想でしたよ。」
「え?マジ?」
「うん。あ、先輩。これがハリセンボンですよね?」
城崎はショボくれた見た目で泳いでいる魚を指差した。
懐かしいな。
「そうそう。そういえば城崎、ハリセンボンどれかわかんなかったんだよな。頭いいのに。」
「頭いいのは関係ないでしょ。」
「えー、あるだろ。あ。城崎、あれ見て!」
「どれですか?」
周りの目を忘れて、城崎の手を引いてあっちこっちと連れ回す。
隣に並んでじっと水槽を見て、時々城崎を見るとばっちり目が合って恥ずかしくなったりして。
いつのまにか当たり前のように手を繋いで歩いていた。
途中途中にあるソファで休憩がてら水槽を眺め、水族館特有のゆったりとした時間を満喫する。
「今日はペンギンの散歩あるかな?」
「バッチリ調べてきましたよ。今からご飯食べたらちょうどです。」
「さすが。」
去年と同じカフェスペースで、昼ごはんを注文して席に着いた。
城崎はまたフィッシュバーガー食ってるし。
「去年も言った気がするんだけど、なんで水族館で魚食うんだよ。」
「売ってる方が悪いでしょ。」
「去年と同じ言い訳じゃねぇか。」
「だって他に理由あります?ほら、美味しいですよ?」
ずいっと口元にフィッシュバーガーを突き出され、思わず口を開ける。
魚のフライのサクサク感とバンズのフワッと感、あとレタスのシャキシャキと美味しいタルタルソース。
「美味い。」
「でしょ?これで先輩も共犯です♪」
「やられた。」
「先輩のも一口ちょーだい♡」
「うわっ?!」
手首を引かれ、城崎が俺の食べかけのホットドッグにかぶりつく。
「ん。美味い。」
「〜っ!!」
ペロッと舌を出す城崎の妖艶さに、身体がゾクゾクっとした。
「なに顔赤くしてるんですか。」
「い、いやっ…!別に…!」
「俺以外にその顔見せちゃダメって言ってるでしょ〜!?」
城崎はムニっと俺の頬をつまむ。
なんだこのバカップルの公開イチャイチャみたいな…。
いや、バカップルなんだけどさ…。多分…。
「あ。もうすぐペンギンの時間です。」
「行く!」
「はい。行きましょう。」
トレイなどを片付けて、カフェスペースを後にし、俺と城崎はペンギンコーナーへ向かった。
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