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第634話
今年はイルカショーじゃなくてアシカショーらしい。
"今年は"というより、"今日は"イルカがお休みとのことだ。
人だけでなく、動物も休息が必要なんだろう。
「一番前行きますか?」
「いや、子どもが前行きたいだろ。俺は後ろでいいよ。」
「やっぱり優しいですね、先輩♡」
後ろの隅の方に座って、ショーが始まるのを待つ。
案の定前の席にはたくさんの子どもたちが座っていた。
14時になり、アシカショーが始まる。
スタッフのお姉さんと一緒に三匹のアシカたちが登場した。
男の子のザクロくん、女の子のレモンちゃんとライムちゃん。
子どもたちもキャアキャアはしゃいで、見てるこっちまで和む。
「では今から、ザクロくんに輪投げを披露してもらおうと思いま〜す!輪っかを投げてくれる人、手を挙げて〜!」
「「はーーーい!!!」」
ショーの中盤、観客を巻き込んだお披露目タイムが始まる。
投げたい気持ちもあるけど、こういうのは子ども優先だ。
じっと見学を決め込んでいたが、いざ選ばれた子どもが投げてみると、なかなかアシカまで輪っかが届かなかった。
「じゃあ大人の方にも来てもらおうかな〜?投げてくださる方、手を挙げてくださ〜い!」
お姉さんの呼びかけにうずうずしながら、控えめに手を挙げる。
そしたら目が合ってしまった。
「では端っこに座ってるお兄さ〜ん!ステージにどうぞ〜!」
真っ先に指名されてしまった。
おろおろしてたら、城崎にぎゅっと手を握られる。
「大丈夫ですよ。楽しんできてください。」
「お、おう……」
応援をもらって、俺は恥ずかしながらもステージに上がる。
うわああ。ザクロくん可愛い…!!
「では、お兄さん!ザクロくんに輪っかを投げてあげてくださいね〜!」
「はい…。いきます!」
「「ひとーつ!ふたーつ!みっつ〜!!」」
お姉さんだけでなく、観客の子どもたちにも一緒に数えられ、ザクロくんは無事、俺の投げた3つの輪っかを鼻先でキャッチした。
成功して会場が盛り上がる。
「お兄さん、ありがとうございました〜!はい、ザクロくん達もお礼しようね〜!」
お姉さんがそういうと、アシカ達が俺に向かって会釈した。
か、かわいい…!!
「めっっっちゃくちゃいい子だった……!」
「先輩、口元ニヤけてますよ。」
「そりゃニヤけるだろ!」
席に帰ったら帰ったで、城崎が揶揄ってくる。
恥ずかしかったけど、手を挙げてよかった。
そのあと、レモンちゃんとライムちゃんも芸を披露して、アシカショーはお開きとなった。
「先輩、よかったですね。」
「うん。挙げてみるもんだな。」
「動画撮っちゃいました。あとで一緒にみませんか?」
「見たい…かも…。」
興奮冷めやらぬまま城崎と歩いていると、後ろから「すみません。」と声をかけられた。
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