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第635話

「はい…?」 振り返ると、大人の可愛らしい女性二人組。 俺をみて、そして城崎に視線を動かして驚いた顔をしている。 「え、やば!一緒にいる人も超イケメンじゃん!!」 「あ、あのっ!さっきステージに立ってた方ですよね!素敵でした!」 「はぁ…。」 「よかったら連絡先教えていただけませんか?この子が一目惚れしちゃって…!」 一人がスマホを出してグイグイくる。 つまり何? これってナンパ…? 「すみません。デート中なんで。」 「へっ?」 「デート中。だからナンパは他所でやってくれる?」 城崎は俺の手を握って、女の子二人に見せつける。 女の子達は目が点になっていたけど、二回言われて理解したのか、顔を赤くして慌てて去っていった。 「いいのかよ?」 「何がですか?」 「今、もろにカップルって公言してたけど。」 「知らない人だしいいでしょ。嫌だった?」 「嫌じゃない…。」 ぎゅぅっと繋がれた手に力を込めると、城崎は嬉しそうに笑って歩き始めた。 あー……、めちゃくちゃデートって感じ。 こんなに堂々としてていいのかなって、ちょっと不安に思ってしまう反面、当たり前のように人前で手を繋いでいるのが嬉しい。 「見えてきましたよ、巨大水槽。」 「あ、ほんとだ。相変わらずデカいなぁ。」 視線の先にはこの水族館の目玉である巨大水槽。 エイやサメ、小さな魚から大きな魚まで優雅に泳いでいる。 「綺麗だなぁ……。」 「はい。」 「だからお前の視線、さっきから俺なんだって。」 「だって先輩が一番綺麗なんだもん。」 「……っ」 城崎の臭い口説き文句に照れてしまう。 よく恥ずかしげもなく言えるよな。 まぁ、嬉しいんだけど……。 手を繋いでぼーっと水槽を見つめて、多分結構時間が経った。 いつのまにか指を絡めて手を繋いで、さっきよりも体の距離が近くて、ハッとする。 「次!次行こうぜ!」 「熱帯魚?」 「そうそう!そんで、そのあとふれあいコーナーな!」 「先輩がエッチになるとこだ。」 「は?!ならねぇし!!」 城崎は多分、去年のドクターフィッシュのこと言ってるんだと思う。 誰がエッチだ、誰が。 「またするの?」 「ダメか?」 「ダメじゃないけど、声我慢してね?」 「………善処する。」 あのくすぐったさに耐えられる自信はないけど、ふれあいコーナーを飛ばすのも嫌だったので、渋々そう返事した。

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