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第637話

「どうした…?」 城崎、顔真っ赤。 「どうしたもこうしたも、恋人に上目遣いで目に涙溜めながら可愛い声出されたら勃つに決まってるでしょ!?」 「へ?」 「さっき!!なんならまだ治ってないし…。」 城崎は繋いでない方の手で口元を隠す。 ええ…?可愛いんだけど。 「勃ってんの?」 「だからそう言って…!??」 「ほんとだ。」 「馬鹿なんですか?!!」 城崎の股間に触れると、たしかにばっちり硬くなっていた。 だから歩き方ちょっとおかしかったのか。 「トイレあるけど、抜く?」 「…………」 「抜いてやろっか?」 「〜〜〜!!いいです!先輩はここで待っててください!!」 城崎は真っ赤な顔して怒りながら、一人でトイレに入ってしまった。 今日ずっと格好良かった彼氏が可愛すぎて、ギャップに俺の心臓耐えきれず。 バックバクいってる。 「あー……。好き………。」 思わずしゃがんで、一人でそう呟いてしまうくらい、思いが溢れて止まらなかった。 城崎がトイレ行ってる間に、頭冷やす意味も込めて、売店でソフトクリームを買う。 ソルト味。美味い。 「なんか食べてるし…。」 「あ、おかえり。城崎もいる?」 「いる。」 ソフトクリームを向けると、城崎は俺の手首を掴んで、大きな口を開けてソフトクリームを食べた。 知覚過敏って言葉をご存知でない?ってくらい食われた。 本人は「冷た…」って言いながら、顔を顰めてるけど。 「帰ろっか。」 「はい。」 ソフトクリームを食べ終えて、水族館を後にする。 夕陽に照らされながら、手を繋いで駅に向かう。 「去年は帰り、先輩が突然お家に誘ってくださったんですよね。」 「そうだっけ?」 「そうですよ!家で映画見ようとか言われて、口説かれてるのかと思いました。衝撃的すぎて忘れません。」 城崎に言われて思い出す。 水族館終わった後、まだ外が明るくて…。 解散するには早くて、でもどこに行こうってのもなくて。 ただ、もう少し一緒に居たかった。 「あー…、映画の趣味一緒で嬉しくてさ。」 「俺幸せすぎて死ぬのかと思ったんですからね。」 恥ずかしいので、適当に誤魔化す。 あの頃はまだ恋人って感覚がなくて、友達を呼ぶ感覚に近くて、でも城崎がちゃんと分からせてくれたっていうか…。 キス、すげー嬉しくて、気持ちよかったの覚えてる。 「城崎、家帰ろ。」 「はい。」 「俺たち二人の家な。」 「はい。……ふふっ(笑)」 「何?」 「いや、嬉しくて。先輩と一緒に暮らしてるの。」 「ふーん?……あー、腹減ったなぁ。」 「早く帰ってご飯にしましょう。」 照れ隠ししていることも、きっと城崎にはお見通しなんだろうな。 まっすぐ伸びる二つの影は、去年よりももっと距離が近くなっていた。

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