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第648話

「な…んで……。」 「え〜?なんでって、似合ってないから。吊り合ってないよ。お兄さんだって、自分で分かってるでしょ?ナツはさ、誰か一人のものになっていい人じゃないの。だから僕だって、他のセフレいたのも許容してたし?」 「…………」 「それを独り占めするなんてさぁ。酷い話だよね?自分の容姿、鏡で見たことある?」 「……っ」 「自信ないんでしょ?昨日、僕とナツがキスしてるの見て逃げたもんね?ナツに愛されてる自信あったら、僕のこと引っ叩いて文句言えばいい話だもん。」 可愛い顔して、言ってることえげつない。 心をナイフで何度も刺されているみたいで、痛くて苦しい。 今すぐこの場から去りたい気持ちでいっぱいだ。 「それとさ、お兄さん元々ノンケでしょ。そういうのって分かるんだよね。その、ナツしか知らな〜いって感じ、すっごいムカつく。今まで女と普通の恋愛しかしてこなかったくせに、我が物顔でナツの隣にいるのやめてくんない?」 「い、今は…」 「今はナツが好き?他の男は?無理でしょ?あんたさ、自分の将来考えたことある?ナツに捨てられた時のこと、考えたことある?親切心で言うけどさ、女もいけるなら、今のうちに結婚相手探した方がいいよ。」 「捨てられたら、もう恋愛はしない…。城崎以上に好きになれる人はいないから…。」 「ふーん?どうせ、前付き合ってた人の時もそう思ってたんでしょ?」 前……。 そうだ。千紗と付き合ってる時だって、そう思ってたし、結婚するんだって思ってた。 「あんたには僕たちゲイの気持ちなんて分かんないよ。いつか絶対後悔する。子どもができないこと、結婚できないこと、世間から認められないこと。小さい頃からそれを覚悟してきた僕たちとあんたとじゃ違うんだよ。」 「俺は覚悟してるつもりで…」 「つもり、でしょ?じゃあ胸張って親に言える?親に反対された時、親と縁を切る覚悟はできてる?僕は言ったよ、親に。勘当されて、今は身寄りもいないの。あんたにはあるの?全てを捨てて、ナツを選ぶ覚悟。」 今まで俺があやふやにしてきたこと全部、この子は既に覚悟していた。 いつか親に城崎を紹介して、認めてもらえればいいな、認められなかったら諦めずに説得するしかないなって思ってた。 親と縁を切るなんて、考えたこともなかった。 そういうことすら起こりうる世界だと、自覚していなかった。 「もう大人なんだから、その辺ちゃんと考えた方がいいよ。あんたは女と恋愛できるんでしょ。いいことじゃん。僕たちはできないんだもん。」 「…………」 「子どもに恵まれて、親に孫の顔見せてあげたいと思わないの?」 「………思うよ。」 「じゃあナツのことは諦めなよ。あんたにとっても、ナツにとってもいい選択肢じゃん。」 そう…なのかな…。 俺と城崎が恋愛することは、そんなにいけないこと? 俺は城崎との将来、甘く考えすぎてた? 「あんたの周りの人間、みんないい人だったんだね。こんな当たり前のことすら、未だに自覚できてないなんて。」 俺と城崎のこと、驚きこそするものの、否定する人はほとんどいなかった。 親友の涼真、元カノの千紗、ちゅんちゅん、取引先の吉野さんに、カメラマンの山上さん。 城崎を通じて知り合った人はみんな理解がある人だったし、別れろと言う人はいなかった。 「みんな祝福してくれたんだ?そっかそっか。お兄さんはさぞ性格が良くて、みんなに好かれてるんだろうね。でもね、世の中にはそんな優しい人ばかりじゃないよ。」 「…………」 「ナツと歩いてて、周りの目が気になったことない?あるでしょ?そりゃあるよね。だって、お兄さんは男同士の恋愛が当たり前のものだと思ってないもんね。」 「そんなこと…」 「言い訳してるんでしょ。周りにバレたらこの関係は続かない、続けられないって。ナツはどう?手を繋いできたり、キスしてきたり、普通にするでしょ?それがお兄さんとの考え方の違い。」 全部図星だ。 城崎が周りの目を気にする理由は、全部俺のため。 俺が周りから変な目で見られないように。 俺が会社を辞めさせられないように。 城崎はいつも俺のことを守ってくれていた。

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