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第650話

職場に着くと、もう既に城崎は出勤していた。 部署の手前で立っていて、きっと俺のことを待っていたんだと思う。 「先輩、どこ行ってたんですか?」 「別にいいだろ、どこでも。」 「顔色悪いです。何かありました?」 「今の俺、城崎に酷いこと言っちゃそうなんだよ。…頼むから話しかけないでくれ。」 「いいですよ、酷いこと言っても。話しかけられない方がツラいから。」 やめろよ…。 優しくするな。 自分が醜くて、情けない。 何も考えてなくて、それを城崎のセフレ相手に指摘されて、おまけに城崎に当たりそうになるなんて。 「ごめん…。明日まで待って…。ちゃんと気持ちの整理つけるから…。」 「分かりました…。明日ちゃんと話しましょうね?」 「うん。ごめん。」 城崎の優しさを無下にして、俺は逃げた。 でもきっと今日で終わる。 城崎は俺以外の人とホテルなんて絶対行かない。 大丈夫。信じてる。 今日帰ったら、ちゃんと勘違いしてごめんって、俺が不安になりすぎたって謝るんだ。 それで、ちゃんと色々考えて、胸張って城崎の恋人だって言えるようにするんだ。 「主任、せっかくの連休、楽しめませんでした?」 「え?」 「何か嫌なことがあったのかなと。表情が曇ってらっしゃるので。」 作業していると、ふと蛇目に話しかけられる。 俺、そんなに顔に出てたかな…。 「そ、そう…?大丈夫だよ。リフレッシュしたし。」 「ふふ。どこに行かれたんですか?」 「水族館。」 「それは素敵ですね。イルカショーなどご覧になったんですか?」 「いや、アシカショーだった。すげーんだよ、アシカ。」 「それはそれは。休憩時間にゆっくり聞かせていただきたいです。」 蛇目って話引き出すの上手いな。 楽しいこと思い出して、一瞬嫌なこと忘れられた。 昼休憩、こいつに水族館の思い出話してたら気が紛れたりして。 「いいよ。昼、食堂でいい?」 「いいんですか?」 「うん。」 「城崎くんが怒りませんか?」 「今日はちょっとな…。」 城崎の方をチラッとみる。 真剣に仕事してる。 いつもなら蛇目と話してたら、こっち見て睨んでんのにな…。 「喧嘩中ですか?」 「喧嘩っていうか…。俺が勝手に考えすぎてるだけっていうか…。明日には仲直りするから、大丈夫。」 「それならよかったです。主任が元気ないと、皆さん心配してしまいますよ。」 「悪い。ありがと。」 蛇目の優しさに甘えて、昼食を共にした。 蛇目はとても聞き上手で、城崎が水族館で魚のフライ食うこととか、人前で手を繋いだりしたこととか、恋バナから笑い話まで全部話してしまった。 俺は照れながらも、城崎との思い出を誰かに話すことで少し気持ちがスッキリした。

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