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第654話
涼真はしばらく固まり、そして急にツッコミをいれた。
「んなわけないだろ!?浮気した男が、あんな必死に恋人探すかよ?!」
「探すだろ…。俺が本命にしろ、浮気相手が俺だったにしろ、なんか…いろいろ……」
「色々ってなんだよ?」
「……俺との体の相性がいい…とか……。」
「ぶっ!!」
涼真は飲んでいるものを吹き出した。
「……汚い。」
「いやいやいや!おまえがいきなり変なこと言うからだろ!!というか、親友のシモ事情聞きたくねぇよ!!」
「悪い…。まぁでも、そういう理由もあり得るだろ。」
「いや、城崎に限ってはないだろ。………ないない。絶対ない!あんなに綾人一筋だったじゃん!」
「俺だって信じてたよ。城崎は俺だけだって何度も言ってくれたし…。」
「じゃあおまえだけじゃん。」
涼真はあっけらかんとそう言った。
でも、それだけじゃないんだもん。
「そんなこと言うけどさ、絶対涼真だって俺の立場になったら浮気疑うよ。」
「あれだけ愛されといて、よくそんなこと言えるなぁ。」
「じゃあさ、涼真だったら彼女が元彼とラブホ入ってるの見たらどう思う?」
「えっ…?」
「浮気だって思うでしょ?」
「それは………、うん……。え?」
涼真は信じられないといった表情で俺を見た。
俺だって信じられなかったよ。信じたくなかった。
でもそれが事実なんだ。
「最近一年記念日だったんだ。」
「うん、知ってるよ。祝ったじゃん。」
「うん、ありがとう。でさ、よく行くバーでも祝ってもらってたんだよ。」
「おう。」
「そこで俺、酔って寝ちゃって。起きたら城崎が知らない人とキスしてて…。」
「え?は?」
「それが元セフレ。しかも四年も続いてた人だって。」
「はぁ?うわ。それはキツイかも。」
「だろ?なのにさ、昨日の仕事終わり、その子とラブホ入って行った。」
「………マジか。」
あんなに悲しかったのに、急にイライラして、淡々と全部話せた。
そのセフレに朝会って宣戦布告されたこととか、嫌いなブラックコーヒー奢らされたとか、そのラブホが二人の行きつけだったとか。
情緒不安定すぎて、話終わったあとめちゃくちゃ泣いたけど、涼真が全部聞いてくれたから少しスッキリした。
「綾人……、それ黒確定だわ。…って、言いたいとこなんだけどさぁ。」
「うん…。」
「でも、俺にはどうしても、あの城崎が浮気するようには見えないんだよなぁ。」
「俺も見えないよ。でもさ、俺の立場になってみてよ。真実がどうあれ、心がバキバキにへし折られてんだよ…。」
「そうだよなぁ…。」
「それにさ、城崎だけの問題じゃないんだよ…。」
「どういうこと?」
「ううん。俺の問題。」
俺の気持ちというか、覚悟というか…。
ちゃんと考えなきゃいけないこと、色々ある。
「なにそれ。」
「その浮気相手に、図星突かれまくったんだよ。」
「そっか…。」
「……俺どうしたらいいかなぁ。」
「とりあえず城崎と話したら…?」
「やだ。別れ話したくない。」
「うーん……。そんな雰囲気ではなかったけど。まぁ、綾人の気持ちの整理がついたら、一旦話してみたらどう?二人きりが怖いなら、俺も立ち合うし。」
「ありがとう。」
涼真に話して少しだけ鉛のように重かった気持ちがとれて、俺はうとうとと微睡んだ。
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