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第656話

「おはようございます。」 「おはよ〜。」 みんなが出勤してくる中、俺は一人ソワソワしていた。 今日、城崎と話さなきゃ…。 そう覚悟を決めて、涼真の家を出てきた。 「主任、おはようございます。」 「あぁ、おはよう。」 「城崎くんと仲直りできました?」 蛇目に聞かれて言い淀む。 あの後浮気現場目撃して逃げたなんて、こいつに言ったら色々面倒なことになりそうだし。 「まだ。今日話そうと思って。」 「あらあら。でもさっき、部長が休みの連絡取ってましたよ?」 「え?」 「城崎くん、風邪を拗らせてしまったみたいですよ。」 蛇目にそう言われて、心配な気持ちと、少しだけホッとした気持ちになる。 この期に及んで、俺はまだ城崎と話す覚悟ができていないらしい。 「お見舞い、行ってあげたらどうですか?」 「でも……」 「仲直りのチャンスですよ。人間、弱った時こそ本音を漏らしちゃいますからね。」 「そ…うかな…。」 「はい。きっと大丈夫です。」 蛇目にそう言われて、なんか大丈夫な気がしてきた。 家出した手前、少し行きづらいけど、でももしちゃんと話し合えたら…。 あれが本当に浮気じゃなくて、俺の勘違いだったら…。 「蛇目、ありがとう。行ってみる。」 「主任、少しだけ表情明るくなってよかったです。」 「そう?」 「はい。城崎くんのこと、本当に好きなんですね。」 そう言われて、思わず照れる。 城崎のことになると、よく表情が変わるって言われる。 直さなきゃと思う反面、城崎はそれを可愛いと言ってくれるから、このままでもいいのかもと思ったり。 「望月〜。」 「はい。」 「今日なんだが、城崎の代わりに外回り行ってくれるか?何社かアポ取っててな。直帰してもいいから、よろしく頼む。」 「分かりました。」 部長に頼まれ、資料を預かる。 主任だから、俺も一応目を通してる資料だし、内容も心得ている。 城崎の代わり…ってのは緊張するけど、あいつの面子を立てるためにも頑張らないと。 今日予定していた3社を回り、時刻は17時。 定時よりやや早い終わりだけど、直帰許可をもらっているので、そのまま城崎に会いに行くことにした。 スーパーに寄り、色々見て回る。 「何なら食べれるかな…。」 桃やリンゴ、ヨーグルトにゼリー。 お粥作ってもいいかもな、なんて。 家に米はあるから、買うものはこれくらい? これだけあれば、どれかは食えるだろ。 袋に詰めてスーパーを後にし、三日ぶりの家へ向かった。

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