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第657話
マンションが見えて、少し緊張する。
金曜日の夜、絶望して別れを告げられる覚悟で出て行った家。
城崎はいるんだろうか?
いる…よな?
もしかしたら、俺みたいに誰かの家にいる可能性もあるのか…。
ドキドキしながらインターホンを押す。
寝てるかな…?
俺が来たら、どんな反応するんだろう。
喜んでくれたらいいな…。
迷惑な顔されたらどうしよう。
いろんな感情が渦巻く中、ドアが開いた。
「何〜?どちら様……」
「……………」
期待した俺が悪かった。
信じた俺がバカだった。
城崎はもう俺のことなんか、どうでもよかったんだ。
「えー…、何…?お兄さん、約束してた感じ?」
「いや…、違う…、勝手に来ただけ…!城崎には言わないで…。」
「ん、分かった。てか、金曜日に諦めつかなかったんだ?なんかごめんね?期待させちゃったみたいで。」
中から出てきたのは、下着姿の那瑠くん。
なんだ…。もうとっくにデキてたんじゃん…。
俺が出て行ってすぐ、俺と住んでた家でシてんじゃん…。
城崎って、結構薄情な奴だったんだ。
「か、風邪引いたって聞いて…。これ、渡しておいて…。」
「どうも〜。でも、お兄さん来たこと言わないで欲しいんでしょ?」
「あ…、そっか。うん。なんか適当に言っといてよ…。俺、食わないし…。」
「ふーん。あ、桃だ。僕好きなんだよね〜。ありがと♡」
那瑠くんはニコリと微笑んで袋を受け取り、扉を閉めた。
俺は、その場でしゃがみ込む。
もうここは俺の居場所じゃない。
城崎とあの子の場所になったんだ…。
「帰らなきゃ……。」
帰らないと…。
でも、どこに?
恋人も家も同時に失って、俺には帰る場所なんてどこにもない。
キャリーバッグを連れながら、行き先なくネオン街を徘徊する。
月曜日だから、少し人は少なめ。
少なくてよかった…。
泣いてるの、あまり人に見られないし……。
「うぇ…っ、うっ…、ヒック…」
最近の俺、泣いてばっかりだ。
だって、仕方ないよな。
恋人に捨てられたんだもん、俺…。
「お兄さーん、大丈夫?」
「この辺、コッチの人多いけど。お兄さんも?」
「って、あれ?結構イケメンじゃない?お兄さんどっち?タチ?ネコ?」
「いや、ネコじゃね?ねー、向こうで楽しまない?」
フラフラ彷徨っていたら、チャラそうな二人組に肩を組まれて絡まれた。
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