661 / 1055

第661話

仕事が終わって、涼真に飯に誘われる。 「で、どうしたんだよ?」 「ん〜…、やっぱ俺、ダメみたい。」 「何が?城崎と話すって言ってたじゃん。」 うん…。 涼真とはそういう約束で泊めてもらったし。 俺もそのつもりだった。 「話すどころか…。門前払い?」 「どういうこと?」 「家帰ったらさ、前言ってた元セフレの子が裸でお出迎え。俺、さすがに無理だ。」 「は?」 「そんな格好で出てこられて、城崎に会いたいとは、俺言えなかった。」 「………。」 じわっと目に涙を溜める俺を見て、涼真は無言で俺を抱きしめた。 「辛かったな。」 「ん…。」 「前も言ったけど、もし綾人が城崎と話したいなら、俺は間を取り持つつもりだよ。でも、綾人が話したくないなら、もういいと思う。」 「うん…。」 「前とは状況が違うみたいだから、無理にとは言わない。俺は綾人の味方だからな。」 「うん…、ありがとう。」 持つべきものは親友だ。 涼真がいなかったら、吐き出す相手がいなくて、悲しさでぺちゃんこに押し潰されていたかもしれない。 ぽろぽろと涙を溢す俺を、涼真は優しく見守ってくれていた。 「さすがに明日は来ると思うんだよ、城崎。綾人はどうする?」 「どうするも何も……。行くしかないだろ…。」 「一週間くらいなら休暇申請通るんじゃないかな。今は蛇目も来て、フォローできそうだし。」 「でも…」 「パーっとどっか出掛けてこいよ。一人旅っつーの?実家帰るのもありだと思うし。」 休暇申請か…。 そんな勝手な都合でいいのかな…。 逆に一人になったら、ずっと城崎のこと考えてしまいそうで怖い。 「明日決めたら?城崎見て、大丈夫そうなら働けばいいし、今会うのはしんどいなら申請出してみればいいじゃん。」 「うん…。」 「今の綾人見て、休むなって人はいないと思うよ。俺、綾人と仲良いからさ、すげー色んな人に聞かれたよ。望月くん大丈夫?って。みんな綾人のこと心配してた。」 「そっか…。みんなに心配かけてんだな…。」 「ポジティブに捉えろよ?みんなおまえのこと好きなんだって。」 営業部、みんな優しいからな…。 みんなの優しさに甘えて、忙しい中俺だけ休みをもらうのは気が引ける。 できるだけ、休みを取る選択肢は選びたくないけど…。 「もしかしたら、休みもらうかも。」 「それでよし。休みもらうかも〜くらいの気持ちでいいって。仕事は絶対とか、思わなくていいから。」 「うん。」 「で、今日うち来る?」 「いや、ホテル取ってるんだ。明日からはまた考える。ありがとう、涼真。」 「どういたしまして。明日早く来るから、いつでも頼って。」 「うん。本当にありがとな…。」 居酒屋を後にして、涼真と別れる。 食事はほとんど喉を通らなくて、お冷ばかりを飲んでいた。

ともだちにシェアしよう!