662 / 1069

第662話

次の日、職場に行くのが嫌だった。 小学生が学校嫌がるみたいな、そんな感じ。 熱がある気がしたけど、もちろん平熱。 重い足を踏みしめながら、職場にたどり着いた。 「おはようございます…。」 「おはよう〜。」「おはよう、望月くん。」「はよ〜。」 みんなが挨拶してくれる中、俺の視線は真っ先にある方向へ向かった。 いた。城崎……。 目が合って、俺はその場から動けなかった。 ずっと会いたかった。 寂しかった。 でも、会うのが怖かった。 城崎は俺の方に向かって、まっすぐ歩いてくる。 今すぐこの場から逃げ出したいのに、まるで足の裏と床を接着剤で固定されたみたいに、一歩も動かすことができなかった。 「先輩…」 「ぁ……」 「お話があります。少しお時間いいですか?」 「…ぇ…っと…、……」 「ダメ…ですか…?」 「……ぁ…の……」 喉がカラカラで、うまく声が出せない。 手が震えて、全身が冷たくなる感じがして、息が乱れる。 もしかしたら、このまま別れ話をされるんじゃないかって。 そう思うと、怖くて怖くて仕方なかった。 「タンマタンマ。城崎、ちょっと待って。」 「何ですか…。」 「綾人の顔見て分かんない?どう見ても今無理だろ。一旦デスク戻れ。」 「……先輩と話したいです。」 「ダメ。戻って。綾人、今話せないから。」 城崎と俺の間に、涼真が割って入った。 視界から城崎が消えて、少しだけ息が吸える。 城崎は諦めて戻っていったらしく、涼真が俺を振り返った。 「顔色やべーけど。」 「………そう…だな…。」 「話せそう?怖いならやめとく?」 「……今日は…、無理…かも…。」 あんなにも会いたかったのに、顔見てやっぱり好きだって、そう思うのに。 城崎と話すのが怖い。 振られたも同然なのに、面と向かって本人に言われるのがこんなにも怖い。 「やっぱり休み申請出したら?一週間くらい休めば、少しくらい気持ちの整理できるだろ。」 「……そうしようかな。」 「うん。通るか分かんないし、出すだけ出してみりゃいいじゃん。」 「うん…。出してみる…。」 涼真に勧められて、休暇希望用紙を記入する。 明日から一週間。 おそるおそる部長に出すと、難なく受理されてしまった。 「最近働きすぎじゃないかと思ってたんだよ。ちょうど声かけるか迷ってたんだ。」 「ありがとうございます…。」 「にしても、今週入ってから本当に顔色悪いぞ?何かあったか?」 「大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみません。」 「今日も午後休にして帰っていいぞ。流石に顔色悪すぎる。唇青いぞ。」 「そうですか…?」 「部下の健康管理も上司の役目だから。もう帰りなさい。あと、相談できることは私にでも相談しなさい。とりあえず、しっかりリフレッシュしてこいよ。みんなフォローしてくれるだろうから。」 部長に会釈して、帰り支度をする。 涼真に一言声をかけ、全体に向かって軽く挨拶して、部署を後にした。

ともだちにシェアしよう!