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第662話
次の日、職場に行くのが嫌だった。
小学生が学校嫌がるみたいな、そんな感じ。
熱がある気がしたけど、もちろん平熱。
重い足を踏みしめながら、職場にたどり着いた。
「おはようございます…。」
「おはよう〜。」「おはよう、望月くん。」「はよ〜。」
みんなが挨拶してくれる中、俺の視線は真っ先にある方向へ向かった。
いた。城崎……。
目が合って、俺はその場から動けなかった。
ずっと会いたかった。
寂しかった。
でも、会うのが怖かった。
城崎は俺の方に向かって、まっすぐ歩いてくる。
今すぐこの場から逃げ出したいのに、まるで足の裏と床を接着剤で固定されたみたいに、一歩も動かすことができなかった。
「先輩…」
「ぁ……」
「お話があります。少しお時間いいですか?」
「…ぇ…っと…、……」
「ダメ…ですか…?」
「……ぁ…の……」
喉がカラカラで、うまく声が出せない。
手が震えて、全身が冷たくなる感じがして、息が乱れる。
もしかしたら、このまま別れ話をされるんじゃないかって。
そう思うと、怖くて怖くて仕方なかった。
「タンマタンマ。城崎、ちょっと待って。」
「何ですか…。」
「綾人の顔見て分かんない?どう見ても今無理だろ。一旦デスク戻れ。」
「……先輩と話したいです。」
「ダメ。戻って。綾人、今話せないから。」
城崎と俺の間に、涼真が割って入った。
視界から城崎が消えて、少しだけ息が吸える。
城崎は諦めて戻っていったらしく、涼真が俺を振り返った。
「顔色やべーけど。」
「………そう…だな…。」
「話せそう?怖いならやめとく?」
「……今日は…、無理…かも…。」
あんなにも会いたかったのに、顔見てやっぱり好きだって、そう思うのに。
城崎と話すのが怖い。
振られたも同然なのに、面と向かって本人に言われるのがこんなにも怖い。
「やっぱり休み申請出したら?一週間くらい休めば、少しくらい気持ちの整理できるだろ。」
「……そうしようかな。」
「うん。通るか分かんないし、出すだけ出してみりゃいいじゃん。」
「うん…。出してみる…。」
涼真に勧められて、休暇希望用紙を記入する。
明日から一週間。
おそるおそる部長に出すと、難なく受理されてしまった。
「最近働きすぎじゃないかと思ってたんだよ。ちょうど声かけるか迷ってたんだ。」
「ありがとうございます…。」
「にしても、今週入ってから本当に顔色悪いぞ?何かあったか?」
「大丈夫です。ご迷惑おかけしてすみません。」
「今日も午後休にして帰っていいぞ。流石に顔色悪すぎる。唇青いぞ。」
「そうですか…?」
「部下の健康管理も上司の役目だから。もう帰りなさい。あと、相談できることは私にでも相談しなさい。とりあえず、しっかりリフレッシュしてこいよ。みんなフォローしてくれるだろうから。」
部長に会釈して、帰り支度をする。
涼真に一言声をかけ、全体に向かって軽く挨拶して、部署を後にした。
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