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第664話

「ごめんね、先輩。…ゆっくり待ちます。……先輩が聞く準備できるまで、ちゃんと待ちますから…。」 「………」 「俺のこと…、拒絶しないで…。連絡もしてほしい…。業務的な内容でもいいですから…。先輩との関係を断つのは嫌なんです…。」 城崎がどうしたいのか分からない。 俺に話って、別れ話じゃないの? 拒絶しないで、連絡欲しいって、何だよそれ…。 「先輩、ご飯食べてますか?細くなったでしょ…。」 「食べてる……」 嘘。本当は全然食べてない。 何も喉を通らなくて、無理矢理入れると吐き戻す始末。 「先輩、眠れてますか?クマできてる…。」 「寝てるよ…、ちゃんと。」 それも嘘。全然眠れないし、頭ぼーっとする。 「俺は眠れない。先輩が隣にいなくて、淋しくて眠れない。」 城崎がそんなことを言うから、思わず「あの子がいるじゃん。」と言いかけた。 「先輩が泣いてるのは、俺のせい…?」 「………違う…よ…っ…」 なんで…。 なんで、城崎まで泣きそうな顔してんだよ…? 酷いことしてるのは城崎なのに、なんで、なんで…。 「……離して、お願い。」 「…………」 「城崎…、離して。」 もう一度言うと、城崎は渋々俺を抱きしめていた手を解いた。 自分で離せと言ったのに、とても淋しいと思ってしまう。 「俺…、そろそろ行くから…。」 「先輩、どこで寝泊まりしてるんですか…?」 「どこでもいいだろ。」 「よくない。危ないところじゃないですか?どうしても家に帰るのが嫌って言うなら、俺がホテル、取っておきますから。」 「いい。今日からしばらく実家に戻るから…。」 「そ…うですか…。」 駅へ向かおうと、城崎に背を向けた。 すると、グイッと後ろから腕を引かれる。 「鍵……、先輩が持ってて…?」 「…………」 「いつでも帰ってきてください…。俺、待ってますから。」 無言で鍵を受け取った。 俺が持っててもいいのか? あの子に渡さなくていいの? まだ、俺の居場所だと思ってもいいのかよ? そんなこと聞けるわけない。 泣きそうな顔を見られたくなくて、再び城崎に背を向けて駅へと足を進める。 俺は決めた。 もう城崎しか無理だから、どうしても他の誰かと結婚して、子ども産んで…、そんな未来が想像できないから、一度両親に伝えるべきだと、そう思った。 驚かれるんだろうな…。 絶縁覚悟って…、結構キツい…な…。 「先輩…っ」 遠くから城崎が俺を呼ぶ声が聞こえる。 振り返ると、大きく手を振っていた。 「気をつけて行ってきてください!」 「………っ」 城崎がどんなつもりで俺にそう伝えたかは分からない。 だけど、本当に親に言ってもいいんだろうかと揺れていた気持ちに覚悟ができた。

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