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第665話

電車に乗って、ホテルの最寄駅のロッカーに預けていた荷物を取って、実家に向かう。 いきなり行っても困るだろうから、連絡を入れるためにスマホの電源を入れる。 「うわ……。」 しばらく開いていなかった私用のスマホ。 通知がすごくて開いて早々熱くなる。 何十件もきている内の9割以上が城崎からだった。 俺は両親に今から帰省することを連絡し、実家に向かう路線に乗った。 平日の昼間から田舎へ向かう人は少なくて、電車の中は無人に近い。 たっぷり時間もあるから、深呼吸してから城崎からのメッセージを開いた。 『先輩、今から帰ります。』 金曜日の19時前。 思い出したくもない、あの大雨の日だ。 『先輩、風邪引いたって聞きました。ゆっくり休んでください。』 『先輩、熱は引きましたか?』 『ご飯は食べられてますか?』 このへんは週末か。 俺が風邪引いた時だ。 城崎も風邪引いてたくせに、俺を心配する内容ばかりだ。 『先輩、お話したいです。』 『先輩、会いたいです。』 『先輩、淋しいです。』 月曜日のメッセージは、俺に会いたいという内容ばかり。 熱で弱っていたんだろうか。 いやいや、俺会いに行ったんだけどな…。 そしたら、城崎じゃなくてあの子が出てきたって、それだけで…。 「あー、もう…。」 また涙が出てくる。 俺ってば、何回泣くんだよ…? 『先輩、帰ってきて。』 『ちゃんと言葉で伝えたいです。』 『明日は仕事に出られそうです。お話する時間が欲しいです。』 『お昼休み、一緒に食事しませんか?』 『明日、先輩に会えるのが楽しみです。』 一方的に送られていたたくさんのメッセージ。 たくさんの着信履歴。 「あいつ……、バカだなぁ…(笑)」 泣きながら、思わず笑ってしまう。 俺、読んでなかったのに。 こんないっぱい送ったら、後で見るの大変だろうが。 こんなの見てたら…、やっぱり好きだなぁって、思っちゃうじゃん…。 「…うぅっ…、うっ…」 画面が涙で濡れる。 愛されてるんじゃないかって、錯覚してしまう。 いつもと変わらない、何よりも俺を優先してくれる、優しくて、甘えたで、真っ直ぐな俺の大好きな人。 やっぱり悪い夢だったんじゃないかって、そう思ってしまう。思ってしまいたくなる。 画面を開いたまま、返信もできずに泣いていると、ポロンッとスマホが音で通知を知らせる。 『代わりに取引先行ってくださり、ありがとうございました。』 城崎からきたのは月曜日のお礼。 俺が返しやすいように、業務的な内容にしてくれたのかもしれない。 震える指をもう片方の手で支えながら、一文字ずつ文字を入力する。 『どういたしまして。』 たったそれだけのやりとりなのに、心がぽかぽかと温かくなった。

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