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第666話

電車とバスを乗り継いで、実家に着く。 「ただいま。」 「おかえりなさい、綾人。」 連絡していたから、母さんが出迎えてくれた。 いつもなら真っ先に飛びついてくる大翔は、どうやらまだ学校のようだ。 「こんな平日にどうしたの?」 「うん…。ちょっとリフレッシュ休暇。」 「ちゃんとお休み取らせてくれるなんて、素敵な職場ね。今回はどれくらいこっちに居られるの?」 「一週間くらい。」 「あら、ゆっくりできるのね。大翔も喜ぶわ。」 「ん。」 大事な話がある…、っていきなりは言えなかった。 でもちゃんと伝える。 父さんにも話したいから、週末だな。 大翔にはまだ刺激が強い話かもしれないから、大翔が外出しているときの方がいいかもしれない。 「先にお風呂に入る?夕食はお父さんも帰ってきてからがいいと思うんだけど…。」 「それでいいよ。風呂、先に入ってもいい?」 「ええ。着替えも準備してるから、ゆっくり入ってきなさい。」 荷物をリビングに置いて、服を脱いで風呂に浸かる。 気持ちいい……。 自分の肌を見て、少し物足りない気持ちになる。 いつもなら城崎が付けた痕がいっぱいだから。 ダメって言ってんのに、あいつ其処彼処(そこかしこ)に付けんだもん。 湯船に浸かりながら三角座りして、顔を半分つけてブクブク〜と息を吐く。 「兄さん!!!!」 「うわぁっ?!」 リラックスしてたら突然風呂のドアが開いた。 ドアの前には、目をキラッキラさせた大翔が立っていた。 「なんで兄さんがいるんですかっ?!」 「え…っと……、お休み?もらったから…。」 「お盆まで会えないと思ってました!嬉しい!!」 「うわぁっ!入るなら服脱げ、バカ!」 制服のまま飛びついてこようとするから、待ったをかけて大翔を制する。 大翔はいそいそと服を脱いで、かけ湯をして湯船に入ってきた。 「兄さん、おかえりなさいっ♡」 「うん、ただいま。」 ぴとっと俺にくっついてくる。 うん。可愛い。弟ってやっぱり可愛いわ。 「いつまで居ますか?」 「一週間くらい。週明けには帰るよ。」 「嬉しい…。毎日一緒の布団で寝てもいいですか?」 「いいけど……。もう高校三年生だろ?」 「だって兄さんと一緒にいたいんだもん。あーあ。明日と明後日、学校休んじゃだめかなぁ?」 「ダメだろ。内申に響いたらどうすんだよ。」 「むぅ…。」 大翔はぷぅ〜っと頬を膨らませて拗ねる。 真面目で大人しい印象だったのに、年々俺に対してワガママになってる気がするのは気のせいか…? なんとか学校には行くように説得して、一緒に風呂から上がった。 風呂から上がると、母さんが夕食の支度を始めていた。 「手伝おうか?」 「いいのよ。それより大翔の勉強見てあげてくれる?」 キッチンに立つ母さんに声をかけると、そう返される。 とは言っても、大翔が目指してるのは東京のW大。 俺が通ってた大学より余裕でレベル高いんだけど…。 「もう大翔の方ができるだろ。俺が教えることないよ。」 「兄さん!見てほしいです!」 「ほら…。見てあげて?多分あの子、綾人がそばにいるだけで満足なのよ。」 「分かったよ…。」 大翔がキラキラした目でお願いしてくるので、仕方なく隣に座る。 懐かしい…けど、やっぱり内容のレベルが違う。 でも大翔は隣に俺が座っているだけで満足らしく、黙々と問題集を解き進めていた。

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