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第667話

「ただいまー。」 「おかえり。」 「綾人、珍しいな。こんな時期に。」 「うん。色々あって休みもらった。」 父さんが帰ってきて、スーツを脱いで席に着く。 ちょうど夕食ができたらしく、母さんがテーブルに食事を運び始めたので、俺もご飯や味噌汁をよそって運んだ。 「綾人、ご飯の量少ないんじゃない?」 「あぁ…、最近食欲なくて。」 「大丈夫なの?」 「うん。」 ダイエット中の女子高生みたいなご飯の量だから、さすがに親にも目をつけられた。 これでも昨日一昨日よりは食べられる方だ。 今日も色々あったけど、でも最終的には城崎に返信ができるくらいにはなったわけで。 それが自分の中で一歩前進した感じがして、ちょっと元気出たんだよな。 「綾人、仕事はどうだ?」 「4月から主任任されて、今頑張ってるよ。」 「へぇ。有言実行だな。」 「まぁ!すごいじゃない!」 「さすが兄さんです!」 家族みんな、俺の昇進を喜んでくれた。 とは言っても、本当に主任として頼られてるかとか、主任としての働きができているのかは微妙だけど…。 母さんってば、仕送り若干増やしたのに気づいてないのか。 苦笑していると、母さんが突然爆弾を投下した。 「ねぇ綾人、彼女さんとはどうなの?」 「………。」 「早くしないと、お母さん還暦迎えちゃうわよ。」 いきなり核心を突かれた気がして黙ってしまったけど、その後おちゃらけたこと言い出したので話を逸らす。 「還暦はまだだろ。」 「細かいことはいいでしょ。それより早く連れてきてちょうだい?また千紗ちゃんみたいにお話ししたいのよ〜。」 「話し相手欲しいだけだろ、それ…。」 「だってつまんないんだもん。綾人のことだから、きっとまたいい子を見つけたんだろうけどね。早く会いたがってるって言っておいてね。」 「…………」 うまく逸らせなかった。 いや、でも結局このことはちゃんと話さないといけないし…。 そのために実家帰ってきたんだしな…。 「父さん、母さん。」 「「?」」 「土日、どっちか時間もらえるかな?」 改まって聞いたから、父さんと母さんも真剣な話だと悟ったのか、顔を見合わせて頷いた。 「土曜ならいるぞ。日曜はゴルフの予定があるんだ。」 「お母さんは土曜日でも日曜日でも時間作れるわよ。」 「うん。じゃあ土曜日で。」 ご馳走様、と手を合わせて食器を片付ける。 大翔がちらちらと俺を見ていたから、少し言いにくいけど伝える。 「大翔、ごめん。大切な話だから、大翔は席外してほしいんだ。」 「……僕は聞かない方がいいことなんですか?」 「んー…とね、今度必ず話すから、まずは父さんと母さんにだけ話したいと思ってる。」 「……わかりました。土曜日は学校で自習してきます。」 「ごめんな。」 大翔は物分かりがいいから、気になる様子だったけど、渋々納得してそう返事してくれた。

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