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第668話
お昼間に帰省すると連絡したから、母さんは布団を干して準備してくれていたようだ。
ふかふかの布団に横になると、大翔も布団に入ってきた。
「大翔はベッドあるだろ。」
「一緒に寝たいです!」
「狭いよ…。」
すっかりダブルベッドに慣れてしまったから、一人分の布団ってことですら狭く感じるのに、大翔が入ってきたらぎゅうぎゅうだ。
でも、無意識に人肌を欲してるのか、大翔に抱きしめられて、俺も手を回してしまう。
大翔は満面の笑みで、ニヤけているのがダダ漏れだった。
「あ、そういえば兄さん…」
「ん〜?」
「さっき母さんにはああ言ってましたけど、もしかして彼女と別れました?」
「へ?!なんでっ??」
「身体にいっぱいついてた、愛の証って兄さんが言ってたの、今回は全然ついてないから…。」
そんなことあったな…。
大翔にも経験として一つ付けさせてあげて、城崎に本気で怒られた。
もう城崎と離れて五日ほど経つから、キスマークは残っているものも薄ら見えるかどうかってくらいだ。
「別れた…のかなぁ…?俺が別れたくなくて、話すら渋ってる感じ……。」
別れたく…ないなぁ……。
こうやって引き伸ばしていても、お互いのためじゃないのは分かってる。
さっさと城崎から別れを告げられて、俺が城崎を諦めるのが一番いいんだって…。
諦められたら、の話なんだけど…。
「兄さんが振ったんじゃないんですか?!」
「大翔、俺のことなんだと思ってるんだよ…。」
「兄さんが振られるなんてあり得ないです!!彼女、一生後悔しますよ。ほら、なんだっけ?あの母さんが気に入ってた前の……」
「あぁ、千紗?千紗は新しい彼氏とうまくやってるよ。俺と今の恋人のことも応援してくれてるし。」
「はぁ?!やば。どういう神経してんだろ?女って怖!」
大翔はゾッとした顔で布団に頭を隠した。
我が弟ながら、本当に臆病だな…。
「大翔も好きな人、できるといいな。」
「はぁ?僕は兄さんがいればそれで…」
「ちゃんと恋愛してさ、嬉しいこととか幸せなこととか、あと悲しいことも苦しいことも、たくさん経験すればいいよ。」
「…………」
「俺は今めちゃくちゃ辛いけど……、でも出会えてよかったって思ってるし、また隣で笑ってて欲しいって思ってるからさ…。兄ちゃん頑張るよ。」
「…………そんな好きなんですか、彼女のこと…。」
「世界で一番好きだよ。多分俺、もうあいつじゃないとダメなんだ。だから頑張る。」
言葉にすると、改めて実感する。
自分の中でどれほど城崎の存在が大きかったか。
城崎のこと、どれだけ好きだったのか。
あの子に城崎か家族を選べるのかと、覚悟はできているのかとそう聞かれ、絶縁覚悟で実家に帰ってきたけど、やっぱり俺は双方手放すことなんてできない。
時間がかかってもいいから絶対に親を説得させて、胸を張って城崎と一緒にいたい。
「なんだか兄さんが彼女に取られたみたいでムカつく…。」
「へ?」
「僕の兄さんなのに…。」
「なんだそれ…(笑)」
大翔がブーブーと文句垂れているのが、なんだか少しおかしくて笑ってしまう。
俺が笑ってるのを見て、大翔は安心したのか眠ってしまった。
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