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第669話

親に言う心の準備がなかなかできないまま、木曜、金曜と、あっという間に過ぎてしまった。 その間にも城崎から連絡は来ていて、『今日はちゅんちゅんがやらかしました。皺寄せ俺に来て最悪です。』とか、『新しい企画が通りました。早く先輩にも見て欲しいです。』とか、比較的返事しやすい会社の内容が主だった。 好きとか、会いたいとか、多分俺が返事しなかったから、俺からそのサインを出すのを待ってくれているんだと思う。 俺は内容なんか正直どうでもよくて、ただ城崎から連絡が来るのが嬉しかった。 短いやりとりだけど、城崎と繋がれているだけでよかった。 「兄さん、いってきます。」 「ごめんな、大翔。勉強頑張って。」 「何時だったら帰ってきてもいいですか?」 「んー…、遅くても夕方には終わるんじゃないかな…。」 「わかりました。17時に帰ります。」 朝10時、大翔が家を空けてくれた。 つまり、とうとう親に話す時が来たってことだ。 「父さん、母さん。今、時間いいかな?」 「あぁ。行くよ。」 「お母さん、お茶用意するわね。」 父さんがダイニングチェアに座り、母さんがお茶を3人分用意して父さんの隣に座った。 俺は対面に座って、深呼吸をする。 「……………」 「どうしたの?そんなにかしこまって。」 「百合(ゆり)、もう少し待ってやれ。」 俺がなかなか話し出せずにいると、父さんが急かす母さんを制した。 心拍数が早い。 自分でも緊張しているんだとわかる。 「あ…のさ……」 「ん。どうした。」 「……俺…、……………今好きな人がいて……」 「あぁ。」 「………もうどうしても、その人としか考えられなくて…、生涯一緒にいたいと思ってて……。」 肝心なところが言い出せない。 相手が"男"だと、それを伝えたいのに。 「まぁ!だから早く連れてきてって言ってるのに!」 「………」 「百合。」 「………」 「綾人、続きがあるんだろう?」 父さんはなんとなく気づいているようだった。 母さんは父さんに制されて黙ったものの、嬉しそうに目を輝かせて俺を見ていた。 ごめんね、母さん。 「相手の人、………男…なんだ……。」 「…………」 「え?何?どういうこと?」 母さんは突然の告白を理解できず、戸惑っているようだった。 「孫の顔、見せてあげられない。」 「え?え?」 「驚かせてごめん。親不孝でごめんなさい。」 「…………」 俺が何度も謝るのを見て、母さんはやっと状況を理解し始めたようだった。 父さんは何も言わず、ただ黙って俺の話を聞いていた。

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