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第672話

次の日、朝少し早く起きて、シャワーを浴びてからスーツに着替える。 今日からまた宿を探さないといけないから、とりあえずキャリーバッグは涼真の家に預けさせてもらうことになった。 帰りに取りに来て、そこから宿探し。 「綾人、準備できたか?」 「おー。」 「あ、着替え置いてていいよ。洗濯して職場に持っていくから。」 「本当に?サンキュー。」 お言葉に甘えて、洗濯はお願いすることにした。 家を出る時、涼真がビジネスバッグとは別に紙袋を持っているのに気づく。 「涼真、何それ?」 「えっ…、あ、いや、別部署の奴に頼まれ物されてて…」 「誰?」 「綾人の知らない奴!」 何となく聞いただけだったんだけど、涼真はえらく動揺していた。 何だあいつ…。 電車を乗り継ぎ20分。 職場を目の前にすると、少しだけ緊張した。 それはもちろん、城崎に会うからなんだと思う。 会いたかったけど、城崎目の前にしてまた過呼吸になったらどうしよう? 自分が原因で過呼吸になられるとか、俺だったら絶対ショックだもん…。 「綾人、大丈夫か?顔色良くないぞ?」 「あ…、うん。大丈夫。」 そんなに表情に出ていたのかと、深呼吸して気持ちを引き締める。 部署に着くと、城崎は既に仕事を始めている様子だった。 でも、俺を見つけて、嬉しそうな顔で立ち上がる。 「おはようございます、先輩っ!」 「お…はよぅ…」 少し声が小さくなったけど、ちゃんと挨拶を返せてよかった。 城崎は満面の笑みで作業に戻る。 俺も自分のデスクへ行くと、思ったよりも仕事は溜まっていなかった。 「びっくりしたろ?綾人が休んでる間、俺が代理でしっかり仕事してたからな!」 「マジ?ありがとう。なんか悪いな…。」 「ま、次期主任は俺ってことかな〜?その席俺にとられないように頑張れよ!」 「お、おう…。」 お礼を言ってたのに煽られた。 涼真なりの鼓舞か…? いや、ただの宣戦布告かもしれない。 「先輩、資料の確認お願いします。」 「え、早…。」 「お願いします。」 始業時間を超えてすぐ、城崎が俺に資料の提出にきた。 受け取ろうとすると、手が触れて、そのままぎゅっと握られる。 「…っ!」 「先輩、体調大丈夫ですか?」 「大丈夫だからっ…!………離して。」 「………すみませんでした。」 城崎はあっさりと引き下がり、自分のデスクへ戻っていった。 ドキドキ、ドキドキ。 胸が大きく脈打つ。 ただ手を握られただけで、こんなにも動揺してるなんて。 俺、本当に城崎とやり直せるのかな…。 これから先のことが予想できなくて、とても不安になった。

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