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第673話
作業にひと段落ついたとき、机に珈琲が置かれた。
城崎かと思って見上げると、そこにいたのは蛇目だった。
「おかえりなさい、主任。」
「あぁ、ただいま。珈琲、ありがと。」
カップに口をつけると、苦い味わいが広がる。
そうだよな。普通の珈琲これくらいだよな…。
「あれ?珈琲お嫌いでした?お飲みになってるイメージあったんですが…。」
「いや、美味いよ。大丈夫。」
「でも今明らかに…」
「気のせい…、え?」
もう一度カップに口をつけようとすると、横からカップを奪われ、新しいものが置かれる。
蛇目が立っているのと反対側、そこには城崎が立っていた。
「先輩の好みも知らないのに、珈琲淹れて好感度アップしようなんて無駄ですよ。」
「城崎…」
「先輩はこっち飲んでください。ちゃんと先輩の好きな味に作ってきたので。蛇目さんが作ったのは俺が飲みます。」
城崎はわざとなのか偶然なのかはわからないけど、俺の口を付けたところに口を付けて珈琲を飲み切った。
間接キス…。
いや、散々キスした関係なのに、今更間接キスなんて気にしてないか。
城崎の作ってくれた珈琲に口を付けると、大好きな味が口の中に広がる。
「やっぱり主任、私の作ったのは苦手だったんですね。」
「え…?」
「城崎くんの珈琲は凄く幸せそうな顔で飲まれてるじゃないですか。私の珈琲飲んでた時、口元が歪んでましたよ。」
マジか。
俺分かりやすすぎだろ。
「先輩、明日からも俺が作っていいですか?」
「いや…、いいよ。自分で作る。」
「作らせてください。……ダメ?」
「ダメ…じゃない……けど……。」
「じゃあ明日から、また先輩の珈琲係に復活しますね。」
城崎の誘いを断ろうに断れなくて、曖昧な返答したら、城崎は勝手に決めて笑顔で行ってしまった。
いや、助かるんだけどさ…。
今はそんなに詰まらずに話せたけど、また何かの拍子に過呼吸起こしたら嫌だから、今はあんまり関わりたくないのに…。
「あらあら。珈琲係、取られちゃいました。」
「やりたかったのか?」
「そりゃあ、主任にお近づきになれるんですから。」
「珈琲如きで近くならねぇよ。」
「それはどうでしょうね?」
相変わらず蛇目は何考えてるかわからない。
飄々としていて、掴みにくい。
「そうそう、主任。私たち福岡出張なんですってね。」
「あぁ、発表されたのか。」
「その感じ、主任は前からご存知だったんですね。」
「なんか主任だからって、少し早めに教えてもらった。」
「主任にNG出されてなくてよかったです。実りある出張にしましょうね。」
「出さねぇよ(笑)まぁ、当日よろしくな。」
「こちらこそ。」
蛇目は会釈して業務に戻っていった。
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