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第674話

終業時間を迎え、涼真と一緒に帰宅する。 預けていたキャリーバッグを預かり、スマホで今日の宿を探す。 「毎日ホテルじゃ金銭的にもキツイし、ネカフェでいいかな?泊まれるよな?」 正直言うとネカフェなんてあまり泊まったことないし、未知の不安みたいなものはあるんだけど、でも最近若い子がちょっと宿とれなかった時とかに使うって言うし…。 でも調べたら、ゲストハウスってのもなかなか良さそう。 低コストだし、1ヶ月とか利用できるし。 ただ知らない人と同じ空間で過ごすっていうのが、俺に合ってるかどうかわからないんだよなぁ…。 相部屋の相手が合わなかったら最悪だし、いろいろ共用だから人に会いたくない時にも会ってしまうかもだし。 色々迷っていると、涼真が心配そうな顔をして俺に提案した。 「綾人、俺の家居座っていいよ?彼女、しばらく来れないって言ってるし。」 「いや、なんか悪いし…。30にもなって友達の家に上がり込むって…。」 「親友なんだから頼れよ。俺は綾人が泊まるの嬉しいくらいだし。あ、じゃあ夕飯作ってよ。それでチャラってことで!」 「本当にいいのか…?」 「いいって!夕飯作ってくれたら、マジですげー助かるからさ!」 涼真の言ってることは嘘ではなさそうだったから、ここは甘えてもいいのかな…。 「でも、俺そんなに料理得意じゃないぞ?」 「ぷっ…(笑)知ってるし、俺もだし。てか最近の綾人は城崎に作ってもらってばっかだったから、余計に鈍ってそ〜。」 「それはそうだな。洗濯とかも俺がするよ。」 「まじ?助かる〜。」 泊めてもらう代わりに家事全般を担うことになった。 正直泊めてもらえるのはかなりありがたい。 金銭面というよりは、メンタル的に今一人でいるのが結構キツイからだ。 誰かと話してたら少しは気が紛れる。 それが親友なら尚更だ。 夕食を作ってる間、最近涼真がハマってるお笑い芸人の話とか、彼女との旅行の話とか色々話した。 俺が楽しく聞いているからか、俺のことには触れないでいてくれる。 「ごめんな、涼真。」 「何が?」 「気ぃ遣わせて。」 「遣ってねーよ。俺の前で遠慮とかそういうのナシな。ほら、早く風呂入ってこいよ。」 夕飯食べて、風呂入って、布団に入る。 昨日は酒に頼って眠れたけど、今日は何だか眠れそうにない。 せっかく泊めてもらって、何言ってんだって感じだけど、こればっかりは俺の気持ちの問題だ。 「なぁ、綾人。」 「ん?」 「ヨリ戻したいならさ、家帰れば?城崎だって待ってるっぽいよ?」 涼真は不思議そうに聞いた。 普通そうだよな。 色々あって家出て宿困ってて、でも今その相手とヨリ戻したいって俺は言ってるわけで。 相手も俺を好きなら、何も問題はないわけで。 「ん〜……。まだ戻れない……。」 「なんで?」 「話しただけで過呼吸なるのに、一緒に暮らすとか無理だろ…。それ治して、あと前も言った通り、俺の周りの整理してから向き合いたいんだ。」 好きなのに怖い。 俺の気持ちと体が矛盾してるんだ。 本当、面倒だよな…。 「そっか。まぁうちにいる分にはいいんだけどな。」 「ごめんな…。」 「だから謝んなって。じゃ、おやすみ〜。」 「うん、おやすみ。」 数分後、涼真の寝息が聞こえてきて、疲れてすぐに眠ってしまったんだなと思った。 俺は全く眠れる気がせず、涼真が起きないように布団に潜ってスマホを触った。

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