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第676話
勝負の昼休み。
涼真と一緒に会議室へ向かう。
「綾人、先入ってて。」
「うん…。」
「このあと城崎入ってくると思うけど、もし本当に無理だったらちゃんと出てくること。動けなかったら電話でもいいから。」
「うん…。」
「城崎にもがっつくなとは伝えとく。ちなみに、無理強いしたいわけじゃないから。俺は綾人が頑張りたいっていうから協力したいだけだからな?」
「ありがとう、涼真。」
会議室に入り、窓際に行って外を見る。
ヤバい…、緊張する……。
胸の辺りをぎゅっと押さえて、落ち着け…落ち着け…と自分自身に言い聞かせる。
深呼吸していると、ドアがガチャ…と静かに開いた。
「………先輩。」
「っ…!」
振り返ると、城崎がいた。
嬉しそうな、でも少し不安そうな顔で俺を見つめている。
「近づいてもいいですか…?」
「……うん。」
許可をとって、城崎は少しずつ俺との距離を詰める。
目を合わせてるのが恥ずかしくて、視線を床にそらすと、いつのまにか足元に城崎の靴が見えた。
これ、顔上げたら目の前にいるんじゃ…。
「近…すぎない……?」
「そうですか?触れていいって聞いたんですけど…。」
「い…ぃ…けど……。」
「手、握っていいですか?」
コクンと頷くと、城崎は両手で俺の右手に触れた。
爪、指の間、手のひら、優しく触れられる。
「大丈夫…?」
「ぅ……ん……」
「よかった…」
ほっとしたような声。
顔も上げられずに、触れられる手だけを凝視してしまう。
そしたら急に、視界に城崎の顔が現れた。
「っ!!」
手の甲にチュッ…と、何度もキスされる。
キスされるたびに身体がビクつく。
「……キス、されるなんて…、聞いてない…。」
「本当は口にしたいんですけど。」
「……っ」
なんでこんなグイグイくるんだよ…?
別に恋人作ったくせに…。
浮気したくせに…。バカ……。
「もう少し触れてもいいですか?」
「……駄目。」
「抱きしめたい。」
「…っ!」
「……駄目ですか?」
駄目って言ってるのに、いきなりハードル上げられてびっくりした。
なんでそんな幸せそうに笑うんだよ?
俺じゃない人、いるくせに……。
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