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第677話
「先輩…」
「ぁっ…」
許可してないのに、ぎゅーっと力強く抱きしめられた。
胸がバクバク鳴ってる。
心臓破裂しそう…。
「すげぇ嬉しい。幸せ。」
「……っ」
「ずっと抱きしめたかった。」
俺も。
俺だって、抱きしめたかった。抱きしめられたかった。
でも、いつもならホッと安心するはずなのに、なぜか胸がざわついて、そわそわする。
素直に城崎の背に腕を回すことができなかった。
「先輩…、帰ってきて……。」
「………っ」
「先輩がいないと寂しい。眠れない。ご飯も美味しくないし、時間が長く感じる…。」
「…………」
「お願い。帰って来てください…。」
どの口が言うんだよ。
あの子を愛した場所で、俺をまた抱くのか?
許したいと思っているのに、あの日の光景がフラッシュバックする。
「先輩…?」
「はっ…、はっぁ…」
「大丈夫…?ごめんなさい。ごめん、駄目だった…?」
また過呼吸を起こしてしまう。
やっぱりトリガーはあの三つだ。
あの子とキスしてた光景、ホテルに入っていった光景、そして家の中からあの子が出てきた時の光景。
城崎から求められると、嫌でもあの日の光景が蘇る。
「りょ…ま…、呼んで…」
「先輩…」
「……苦し…ぃ……っ」
「………わかりました。待ってて。」
城崎は悲しそうな顔で、俺に伸ばす手を諦めてドアへ向かった。
すぐに外から涼真が入ってきて、俺のそばに来てくれる。
「綾人、大丈夫。ゆっくり深呼吸しな。」
「ふぅ…、っ…」
「やっぱり急には駄目だったか?」
背中を摩られ、少しずつ息が落ち着く。
駄目だったわけじゃない。
触れられて嬉しかった。
抱きしめられて、幸せだった。
「うぅ〜……。涼真ぁ…。」
「よしよし。頑張ったな。」
「…っ、城崎……、俺だけの城崎なのに…っ」
「うん。」
「他の奴に取られたくない…っ」
「そうだな。そりゃそうだよ。」
涼真は子どもをあやすように、俺が泣き止むまでそばに寄り添ってくれた。
結局昼ごはんも食べないまま休み時間は終わってしまい、俺はお腹を空かせてデスクについた。
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