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第679話
「家、行ってくる。」
「え?」
公共の場で話せることではないし、そうなると家しかない。
あの光景がまたフラッシュバックしちゃうかもだけど…。
「二人で…、話してくる……。」
「大丈夫か?ついて行こうか?」
「大丈夫…。」
ちゃんと話し合うなら、二人でじゃないとダメだと思う。
涼真がいたら、なんか城崎に会いたくないみたいじゃん。
そう思われるのは、嫌だな…。
「城崎に伝えとこうか?」
「自分で言う…。」
「わかった。」
涼真の申し出を断り、俺はスマホに文字を打つ。
『明日、会える?』
震える指を押さえて送信すると、1分も経たないうちに返信がきた。
『会えます。何時にどこに行けばいいですか?』
『15時に、家帰る。』
『分かりました。待ってます。』
やり取りを終えて、フーーッと大きく息を吐く。
家…、怖いなぁ…。
さすがに時間まで指定したんだから、家に帰って城崎以外の誰かがいる…なんてことはないと思う。
「約束できた?」
「うん。」
「本当について行かなくていいの?」
「大丈夫……だと思う…。」
「自信はねーのな(笑)」
涼真は頭を乾かしながらビールをあける。
プシッ…
あ、いい音。
「俺にもちょーだい。」
「先風呂入ってきたら?」
「たしかに。そうする。」
言われるままに風呂に入り、体を温める。
脱衣所で今朝無くしたと言ってたパーカーを見つけた。
「涼真〜、服あった。」
「え?あ、本当?そりゃよかった。」
何でこんなとこにあったのに気づかなかったんだろう?
拾うと、なんとなく、本当に微かにだけど、城崎の香水の匂いがした。
思わず抱き締める。
顔を埋めると、やっぱり城崎の匂いがする。
なんで?匂い、残ってたっけ?
着てた時は感じなかったのに…。
パーカーを抱きしめたまま、リビングへ戻る。
「涼真、これ……」
「え。なんで抱きしめてんの?」
「城崎に貸した…?」
「…!!」
確認のためにそう聞くと、涼真の目が泳いだ。
本当こいつ、嘘つけねーな。
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