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第682話
14時を少し回った頃、家の最寄駅に着いた。
早く着き過ぎたな…。
いや、早く出たから分かってたことなんだけど…。
15時に着くようにって言ったのに、びっくりするかな?
何度も城崎と一緒に歩いた、駅から家までの道を歩く。
空が暗いな…。
「雨、降るのかな…?」
傘、忘れてきた。
そう思って空を見上げると、ポツポツと雨が降り出した。
「うわ、マジか。」
夏の雨っていいことない。
いきなり雨脚強くなったりするし。
歩くスピードを早めると、俺と城崎の住むマンションの部屋が見えた。
その瞬間、ドクンッと胸が痛む。
『え、また来たの?』
あの子の声が聞こえた気がした。
『お兄さんって、しつこいよね。ナツ、うんざりしてるよ?もういい加減ウザイって。』
「やめて……。」
ポツポツ…、ポツポツポツポツ…。
雨は次第に強くなり、ザーーッと滝のように強さを増した。
ダメだ。
きっと幻覚だと、なんとなくそう分かっているのに、どんどんクリアに見えてくる。
俺は急いで城崎にメッセージを送った。
『ごめん。』と、たった一言。
顔を上げるといつのまにか目の前には城崎がいて、俺の前で那瑠くんとキスをする。
もう何が現実で、何が幻覚なのか分からない。
何も受け入れたくなくて、耳を塞いで目を閉じるのに、無理矢理にでも見えてしまう。
那瑠くんは蔑 むような目で俺を見下ろした。
『まだここが自分の居場所だと思ってるの?図々しい〜。未練丸出しなのみっともないよ?』
『先輩、俺たちって別れたんじゃないんですか?』
やだ…、城崎……。
『俺、こいつと付き合ってるんで。』
「城崎…っ」
苦しい。
息ができない。
「先輩っ…!!!」
ぎゅぅっと強い力で抱き寄せられる。
誰?嫌だ。触らないで。
「……っ、ぁ、やだ…っ」
「先輩っ!先輩っ!!」
「ごめん…、ごめんなさい……っ」
訳もわからず謝る。
許してほしい。
もう嫌だ。
こんな苦しいの、しんどいよ…。
息が吸えなくて、苦しくて、涙がボロボロと溢れ出る。
きっとこうして幻覚に襲われるのは、俺の心が弱いから。
全てから逃げて、城崎に縋ろうとしているからだ。
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