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第686話

月曜日、仕事に行くのが憂鬱だった。 自分から距離を置きたいと切り出した罪悪感。 それと、昨日城崎とキスしたくて試行錯誤した恥ずかしさとか。 いや、後者は誰にもバレてないんだけど…。 気持ち的に…な。 「あ、望月くん!」 「久米さん、おはようございます。」 「いやー、改めてみると本当げっそりしてるね。」 「急になんですか…?」 着いて早々、久米さんにじっと見つめられて動揺する。 なんなんだ…? 「城崎くんが手料理作ってくれてるよ!」 「は…?」 「気合い入れていっぱい持ってきてた!ちゃんと食べなね〜。みんな心配してるから!」 久米さんはそれだけ言って、席に戻っていった。 城崎の手料理…? どういうこと……?? 訳もわからないまま、いつも通り仕事する。 変わったことといえば、いつもより城崎との接点が少ないことだ。 距離を置こうと言ったからか、城崎も必要最低限しか俺に話しかけたりしないようにしているようだ。 定時に仕事を終え、涼真の家に帰る。 「涼真、夜何がいい?」 「あー……、俺適当に外で食べる。」 「え?どういうこと?どうせ俺の分作るから、涼真の分作っても変わらねーけど。」 「ん。」 「え…?」 涼真はテーブルにタッパを並べていく。 ハンバーグ、サラダ、スープ。 それに大好きなパンケーキ。 「え、何…?」 「これ、城崎から。」 「…っ」 「土曜日に準備してたんだって。綾人に食べてほしいって。俺は外で済ませてくるから、ちゃんと食えよ。」 涼真はそれだけ言い残して、家を出ていった。 朝に久米さんが言ってたのって、これのこと…? 「なんなんだよ…。」 なんで優しくするんだよ。 俺、あんなに酷いこと言って、城崎の気持ち(ないがし)ろにして…。 どうしてこんなに優しいんだよ…? 泣きそうになりながら、ハンバーグはレンジで温めて、その間にサラダをお皿に盛る。 スープは冷製って付箋が貼り付けてあるから、そのままお皿に。 温め終わったハンバーグをきれいにお皿に盛り付けた。 「いただきます。」 手を合わせて、口に運んだ。 大好きな味。 実家の、母さんの料理とはまた違う、好きな人が作った俺好みの料理。 「美味い……。」 最近食欲なんて全然なくて、何も喉を通らなかったのに、そんなのが嘘みたいに箸が進んだ。 いつの間にか完食していて、デザートのパンケーキもぺろりと平らげてしまった。

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