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第687話

洗い物していると、玄関のドアが開いた。 「ただいま〜。お。全部食えたんだ?」 「おかえり。」 「すげーな。あんなに食わなかったのに。」 涼真は空になったタッパを見て、感嘆の声をあげる。 俺もびっくりした。 いきなりこんなに食ったら、胃がびっくりするかもしれない。 「やっぱり城崎のとこ戻ったら?」 「え…?」 「家庭内別居みたいな感じでもいいんじゃねーの?」 「家庭内別居…?」 「だって城崎の匂いあれば眠れて、城崎の料理なら食えるんだろ?健康のこと考えたらその方が良くね?喋ったりは徐々に増やして慣れていけばいいし。」 「でも……」 城崎と話せないし、触れられない。 近くにいるのに、そんなの……。 それに…。 「俺、家に近付くのが無理かも…。」 「?」 「前、家に近づいていくほど、幻聴大きくなってさ…」 「あー……。そっか。」 「だから、心療内科受けてから考える。」 「まぁ焦りすぎもよくないか。綾人のペースでいこう。」 「うん。」 涼真の提案は魅力的な気がしてきた。 一つ屋根の下にいれば、いつかは慣れて発作も起きなくなるかもしれない。 うん。いいかも。 「いろいろ考えてくれてありがとう。」 「どういたしまして。てか、城崎に毎日飯作ってもらう?」 「いや、いいよ…。迷惑かかるし。」 「あっちは迷惑だなんて思ってないだろうけどな。」 「迷惑だよ。それに俺も気ぃ遣うし。」 「そか。」 城崎の手料理ならたしかに食べられそうだけど、そんな勝手なこと頼めるわけない。 好きだから、これ以上嫌われたくない。 自分勝手でわがままで、言い訳ひとつ聞いてやれない、こんな恋人、今すぐ見捨てられてもおかしくないのに、城崎は俺に合わせてくれている。 俺は何も与えてやれないのに、俺は与えてもらってばかりだ。 「そうだ…。綾人。」 「ん?」 「今週末、彼女と久々に予定合いそうでさ、家空ける。悪いな。」 涼真は思い出したように言った。 何謝ってんだ、ここは涼真の家なのに。 「俺出て行くよ。」 「いや、いいんだって。日中はデートだし、夜はホテル泊まるから。綾人は家にいてくれていいんだ。」 「ううん。俺、涼真に甘えすぎてる。そろそろお暇しようと思ってたんだよ。逆にこんなに長く泊めてもらって悪かったな。」 「綾人、マジで迷惑じゃないよ?」 彼女だって、ずっと俺がいるって思ったらデート誘うのも気を遣いそうだし。 涼真は多分本心で迷惑じゃないと言ってくれてるけど、俺も城崎とヨリを戻したいと言ってるくせに男の友人の家に泊まって、城崎に好かれる努力をしていない気がする。 涼真のためにも、自分のためにも、そろそろこの家は出た方がいいだろう。

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