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第688話

あっという間に週末になり、俺は荷物をまとめてキャリーバッグに詰めた。 「綾人、本当に出るのか?月曜帰ってきていいんだぞ?」 「いいって。大丈夫。」 「ネカフェとか泊まるくらいなら、俺の家でいいじゃん。」 「わかったわかった。ちゃんとホテル取る。それに、早く心療内科受診して、治して家に戻れるように頑張るから。」 「本当?」 「ほんとほんと!じゃあ彼女と楽しんでな!」 涼真に手を振って、家を後にする。 今日は実家に帰る。 母さんが話を聞けるくらいには落ち着いたらしく、やっと父さんからOKが出た。 一度聞いたことだから、前みたいに取り乱さないといいけど…。 電車とバスを乗り継いで実家に着く。 玄関の戸を開けると、一目散にリビングから走ってきたのは大翔だった。 「ただいま。」 「兄さん!おかえりなさい!」 「ん。元気そうだな、大翔。」 まるで飼い主を待っていた犬みたいに、ふんすふんすと鼻息が見えそうなくらい興奮してる。 生えてないはずのしっぽが見える感じ、昔の城崎みたいだな…。 「だって兄さんがまた帰ってきてくれたんだもん!あ、見てください!この前の模試の結果が返ってきて、W大A判定出たんです!」 「すごいな。さすが大翔。」 「えへへ…」 頭を撫でると、大翔は嬉しそうにはにかんだ。 「綾人、おかえり。」 「父さん…。ごめんなさい、何度も連絡して。」 「きちんと話さなきゃいけないことだろ。まぁせっかくの実家だし、ゆっくりしていけ。」 「うん。」 いつもなら母さんが真っ先に出迎えてくれるのに、今日は玄関にも姿を見せなかった。 俺、母さんに嫌われたのかな…。 「あぁ。ちなみに母さんは買い物に出てるだけだからな。」 「え…」 「今不安になってたろ?大丈夫。そんなことで百合が綾人のこと嫌うわけないだろう?」 父さんってば、俺の心見透かしてるじゃん…。 いや、もしかしたら俺が不安な顔してたのかもな。 「父さんは認めてくれてんの…?」 大翔がリビングに向かったのを確認して、父さんに尋ねる。 父さん、何も言ってこないから…。 「認めるもなにも、お前の人生だろ?」 「………」 「好きになった人が、たまたま同性だった。ただそれだけだろ?何を気に病む必要があるんだ?」 父さんに言われて、はっとする。 そうだ。 俺も城崎も、何も悪いことはしてない。 ただ好きで、大好きで、その相手が男だっただけ。 俺は城崎が男だろうと女だろうと、きっと好きになっていた。

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