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第693話
Aquaの扉を開けてみる。
あ…、閉まってる。
そりゃそうか…。バーだもんな、ここ。
「ごめんなさぁい。まだ開店前なの……、って綾ちゃん?!」
「麗子ママ……。すみません、開店前に。」
「いいのよぉ〜。上がって?」
麗子ママはドアを開けようとした音に気づいて、わざわざ来てくれたみたいだ。
入れてくれてよかった。
立ち話はなんか…、違う気がするから。
「それで?どうしたの、綾ちゃん?」
「えっと……」
「あっ!もしかしてホテルの話かしら?お代なら気にしないでね?困ってる時はお互い様だもの!」
ホテルのこと、知ってる…?
やっぱり麗子ママが払ってくれたってこと?
いや、違う…と思う……。
けど、カマかけてみるか…。
「本当にありがとうございました。お金返します。いくらでしたか?」
「だから先にいいって言ったのにぃ!いらないわよぉ!ご贔屓にしてくれてるから、日頃のお礼っ!」
「そういえば麗子ママ、どうして俺の出張の日知ってるんですか?」
「えっ?」
「俺がいつから出張か、知ってますよね?」
「え、えっとぉ…」
麗子ママ、試すようなことしてごめん。
だって、麗子ママじゃないよな?
俺のこと、こんなに甘やかすのは……。
「城崎なんでしょ?」
「ちょ、何言ってるのぉ?私よ、私…!」
「麗子ママ、本当のこと教えてください。俺、昨日酔ってて覚えてなくて…。朝起きたらホテルにいて、なんならまだ混乱してて分からないんですけど…。」
「うん…。」
「でも、城崎だったら嬉しいなって…。麗子ママのこと疑ってる訳じゃなくて、ただの俺の希望っていうか…。失礼なこと言ってるのはわかってるんですけど…。」
麗子ママが全く折れないから、もしかして本当に麗子ママが払ったんじゃないかと思い始めたその時、麗子ママは困ったようにため息を吐いた。
「もう〜!じれったい!……そうよ!綾ちゃんの言う通り、ホテルの件は夏くんよ!」
「…!!」
「昨日ワタシの友達がママしてるバーから連絡があったのよ、泥酔してるお客様がいるって。たまたまそこにいたお客様が、綾ちゃんのことウチで見たことあったみたいで、ワタシに連絡がきたの。」
麗子ママの友達が経営してるバーって、もしかしてゲイバー…?
嘘…?俺一人でゲイバー行ったってこと…?
「それで夏くんに連絡したのね、そしたら電話切ってすぐに向かったみたいよ。そのあとお友達からも王子様がお姫様を連れ去っていったって連絡がきたから、綾ちゃんで間違いなかったんだと思うわぁ。」
「城崎は俺のこと…」
「綾ちゃんは何が心配でそんなに夏くんを避けてるの?夏くんはあんなにも一途に綾ちゃんのこと思ってるのに。」
「那瑠さん…、まだ会ってるでしょ…?」
「会ってないわよ!!夏くんは綾ちゃんのために……、あーもう!これは本人に聞きなさい!とにかくちゃんとお話すること!」
会ってない…?
本当に…?
俺の勘違いだったってこと…?
「でも、もう愛想尽かされたんじゃないかな…。」
「大丈夫よ。どうでもいいと思ってる相手、迎えに行ったりしないわよ。少なくとも、私なら行かないわ。」
麗子ママは呆れたようにそう言った。
麗子ママに本気で怒られたの初めてだ。
でも、感謝しなくちゃ。
「あの…、ありがとうございました。」
「ちゃんと夏くんと話し合いなさいよ?」
「はい。必ず。」
直角に頭を下げて、俺はAquaを後にした。
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