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第695話

次の日、少し早く目が覚めた。 洗面所で身なりを整え、鏡に向き合う。 「はー…、緊張する……。」 今日は先週と違って、城崎がたくさん話しかけてくると思う……、多分。 もう大丈夫…。 城崎は那瑠くんに会ってない。 麗子ママもそう言ってたんだ。 ちゃんと城崎の話聞いて、そうしたらきっと俺の勘違いだったって、それで終わるはずだから…。 ホテルは会社から近くて、しかもいつもより早く出たから、就業時刻より1時間も早く着いてしまった。 きっと誰もいないだろうとほっと息を吐いて部署に入ると、一つだけ人影が見えた。 「先輩、おはようございます…っ」 「お…はよ……」 泣きそうな顔で俺に挨拶したのは、言わずもがな城崎だった。 俺はカタコトみたいに固い口調で挨拶を返し、席に着く。 今日の城崎、なんか一段と格好良い…。 意識しすぎかな…。 城崎はそわそわと俺の方に何度も視線を向けていた。 見た目は格好良いのに、動きが挙動不審で少し面白い。 じゃなくて…、ちゃんと謝らなきゃ…。 「ずっと無視しててごめん…。」 「えっ?」 「気ぃ悪かったよな。」 「そんなこと…」 俺から話しかけると、城崎は驚いた様子だった。 酷いことばかりした。 俺だって辛かったけど、城崎だって同じだけ辛かったのかもしれない。 「ちゃんと話したいけど、もう少しだけ頭と心を整理する時間がほしい…。待たせてばっかりでごめん…。」 「全然平気です。ちゃんと先輩の気持ちの準備ができるまで待ってますから。」 城崎は笑顔でそう言った。 「ちょっと待っててくださいね。」と休憩室に走って行き、しばらくして湯気の立ったマグカップを二つ持って帰ってきた。 「珈琲、淹れていいんですよね?」 「うん……。ありがとう。」 「はいっ!」 心を浄化してしまいそうな笑顔で、俺に笑いかける。 美味しい……。 城崎の淹れた珈琲は格別だ。 俺の好みを知ってる、100点満点の味。 「先輩、早速料理も作ってきたんです。朝ごはんは食べました?」 「………食べてない。」 「じゃあこれどうぞ。ブレッドサラダです。パンたっぷり入れてるからお腹もそこそこ満たされるし、ベーコンと卵も入ってるから食べやすいと思いますよ。」 城崎は数あるタッパの中から一つ選んで、俺に差し出した。 ブレッドサラダって初めて聞いた。 相変わらず洒落たもん作るよな…。 つか、タッパ何個あるんだよ。 まさか全部俺のとか言わないよな…? 「うま…。」 「本当?よかった。ヨーグルトも買ってありますよ。ソース作ってみたんですけど、よかったらかけてみてください。」 「ん…、美味しい。」 ヨーグルトソースまで作ってくると思わなかった。 ベリーが効いてて美味しい。 ブレッドサラダとヨーグルトをあっという間に食べ終え、朝にしては十分にお腹を満たした。

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