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第696話

城崎が持ってきていた大量の料理は、本当に全部俺の分だった。 昼ごはんも城崎の手料理を食べた。 今まで喉を通らなかったのが嘘みたいに、城崎の料理なら食べられる。 俺、やっぱり城崎のことすげー好きみたいだ…。 心もお腹も満たされて、仕事も以前よりも増してやる気が出る。 「先輩、ちょっといいですか?」 「うわっ!え…、あ、どうした?」 「ここなんですけどね、プレゼンの資料、どっちにするか悩んでて…。」 城崎のこと考えてる時に城崎に話しかけられて、心臓が飛び出そうになった。 平静を装いながら用を聞くと、城崎は資料を2枚俺の前に並べた。 どうやら今度の出張の時のプレゼン資料らしい。 「あー…、確かに悩むな。」 「うーん…。」 「うわぁっ?!」 真剣に資料を見比べていると、耳の真隣で城崎の声がして、俺はびっくりして椅子ごとひっくり返りそうになった。 城崎はそんな俺の反応にびっくりしていたが、俺がひっくり返る前に腕を掴んで支えてくれた。 多分城崎は、無意識にこの距離感だったんだと思う。 俺の体が過剰に城崎を拒否しているだけで…。 「ごめんなさい…。近すぎましたか…?」 「わ、悪い…。」 「いや、今のは俺が…。」 気まずい…。 城崎にバレないように隠してるけど、俺の手は少し震えていた。 「こ、こっちの方がインパクトあって、いいんじゃないか…?」 「俺もどっちかと言うとそっちがいいかなって思ってました。ありがとうございます。」 城崎は礼を言って、俺のデスクに並べた資料を回収した。 顔は笑ってるけど、多分傷ついてる。 本当に笑ってる時、こんな顔じゃねぇもん…。 「ごめん…。」 「何がですか?」 謝ると、城崎はとぼけた。 俺が傷つけてるのに、深掘りするのは違うか…。 城崎なりの気遣いなのかもしれない。 「………ううん。それより、出張頑張れよ。」 「先輩も。ちゃんとご飯食べてくださいね。」 「いっぱいもらったから大丈夫。ありがと。」 タッパがたくさん入った紙袋を掲げると、城崎は嬉しそうに笑った。 よかった。次はちゃんと笑ってる。 「明日も何か作ってきます。何が食べたいですか?」 「いいよ。明後日から出張なんだから、しっかり休めよ。」 「俺、先輩のために何かしてる方が幸せなんです。だから、何が欲しいですか?」 ド直球な告白のような質問に、少したじろぐ。 城崎の作るものなら何でも好きなんだけどな…。 うーん………。 「ハンバーグ…とか…?」 「ぷっ…(笑)言うと思った。」 「は、はぁっ?!じゃあ聞くなよ!」 「先輩の口から聞きたかったんです。じゃあ明日、腕によりをかけて作ってきますね。」 「………楽しみにしてる。」 ぼそっとそう言うと、城崎はとても嬉しそうに笑った。

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