696 / 1069
第696話
城崎が持ってきていた大量の料理は、本当に全部俺の分だった。
昼ごはんも城崎の手料理を食べた。
今まで喉を通らなかったのが嘘みたいに、城崎の料理なら食べられる。
俺、やっぱり城崎のことすげー好きみたいだ…。
心もお腹も満たされて、仕事も以前よりも増してやる気が出る。
「先輩、ちょっといいですか?」
「うわっ!え…、あ、どうした?」
「ここなんですけどね、プレゼンの資料、どっちにするか悩んでて…。」
城崎のこと考えてる時に城崎に話しかけられて、心臓が飛び出そうになった。
平静を装いながら用を聞くと、城崎は資料を2枚俺の前に並べた。
どうやら今度の出張の時のプレゼン資料らしい。
「あー…、確かに悩むな。」
「うーん…。」
「うわぁっ?!」
真剣に資料を見比べていると、耳の真隣で城崎の声がして、俺はびっくりして椅子ごとひっくり返りそうになった。
城崎はそんな俺の反応にびっくりしていたが、俺がひっくり返る前に腕を掴んで支えてくれた。
多分城崎は、無意識にこの距離感だったんだと思う。
俺の体が過剰に城崎を拒否しているだけで…。
「ごめんなさい…。近すぎましたか…?」
「わ、悪い…。」
「いや、今のは俺が…。」
気まずい…。
城崎にバレないように隠してるけど、俺の手は少し震えていた。
「こ、こっちの方がインパクトあって、いいんじゃないか…?」
「俺もどっちかと言うとそっちがいいかなって思ってました。ありがとうございます。」
城崎は礼を言って、俺のデスクに並べた資料を回収した。
顔は笑ってるけど、多分傷ついてる。
本当に笑ってる時、こんな顔じゃねぇもん…。
「ごめん…。」
「何がですか?」
謝ると、城崎はとぼけた。
俺が傷つけてるのに、深掘りするのは違うか…。
城崎なりの気遣いなのかもしれない。
「………ううん。それより、出張頑張れよ。」
「先輩も。ちゃんとご飯食べてくださいね。」
「いっぱいもらったから大丈夫。ありがと。」
タッパがたくさん入った紙袋を掲げると、城崎は嬉しそうに笑った。
よかった。次はちゃんと笑ってる。
「明日も何か作ってきます。何が食べたいですか?」
「いいよ。明後日から出張なんだから、しっかり休めよ。」
「俺、先輩のために何かしてる方が幸せなんです。だから、何が欲しいですか?」
ド直球な告白のような質問に、少したじろぐ。
城崎の作るものなら何でも好きなんだけどな…。
うーん………。
「ハンバーグ…とか…?」
「ぷっ…(笑)言うと思った。」
「は、はぁっ?!じゃあ聞くなよ!」
「先輩の口から聞きたかったんです。じゃあ明日、腕によりをかけて作ってきますね。」
「………楽しみにしてる。」
ぼそっとそう言うと、城崎はとても嬉しそうに笑った。
ともだちにシェアしよう!