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第697話
城崎が手料理を持ってきてくれた日から、毎食食事が食べられるようになった。
自分の中ではかなり成長。
多分、少しずつでもメンタルが回復してるんだと思う。
城崎は約束通り、翌日ハンバーグを持ってきてくれて、次の日から出張なのに、定時が終わっても俺に付き合って居残りしていた。
口数はまだ少ないし、会話の内容もぎこちなかったりはするけど、それでも城崎と話すのはやっぱり楽しいし、過呼吸にならずに話ができるようになってきて安心した。
「じゃあ、少しの間会えませんけど…。」
「うん。頑張れよ。」
仕事を終えて一緒に会社を出る。
城崎は名残惜しそうに、分かれ道で立ち止まった。
「先輩、電話してもいいですか?」
「あー……」
電話か…。
正直まだ迷っているというか…。
このまま城崎のところへ戻っていいのかって。
まだ俺の体は城崎を拒否することもあるし、フラッシュバックもまたいつ起こるかわからない。
何も解決しないまま、曖昧にしたまま元の関係に戻って、それでいいのか…?
「…ぃ……、先輩っ!」
「へっ…?!あ、何…?」
「話聞いてました?」
「ごめん…。ちょっと考え事してた…。」
ぼーっと考え事してたら、城崎は俺に何かを伝えていたらしい。
聞き直すと、城崎は真っ直ぐ俺を見て言った。
「前に言ってた、先輩が話したいことは電話で聞こうとは思ってません。ちゃんと先輩のタイミング待つつもりです。」
「うん……」
「俺がしたいのは、世間話とか、そんなのでいいんです。俺が先輩の声聞いて安心したいから。ダメですか?」
「………わかった。」
了承すると、城崎はほっとしたように笑った。
城崎の笑った顔、すごく………
「……格好良い。」
「え…?」
城崎がびっくりした顔で俺を見る。
ん?
あれ?もしかして、声に出てた…?
出てたらめちゃくちゃ恥ずかしくないか?!
いや、何だよいきなり『格好良い』って。
マジで最悪っ!言うつもりじゃなかったのに!
「………っ!な、なんでもない!!じゃあ出張頑張って!おやすみ!!」
「あ、先輩っ!!」
恥ずかしすぎて、俺は口元を隠して城崎から逃げた。
しばらく会えないのにこれでよかったのかと、自分でも甚だ疑問だが、頭を冷やすにはちょうどよかったのかもしれない。
そして翌日から、城崎は大阪出張へと旅立った。
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