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第699話
カランコロン…
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。ご新規二名様で〜す!」
定時に仕事を終えて、涼真と予約した居酒屋へ入った。
この店、懐かしいな…。
まだ付き合う前、城崎と二人きりで飲みに行ったのって、ここが初めてだっけ?
たしか俺、すげー酔って、寝落ちしちゃったんだ。
起きたらホテルで、そんで急に城崎に告白されて…。
あー、ヤバい。涙出そう。
「綾人?ビールでいい?」
「あっ…、うん。」
「すみませーん。生二つと焼き鳥オススメで二人前、お願いします。」
「はいよ!十二番テーブル、生2とオススメ2で!」
外はガヤガヤしてるけど、個室だから扉を閉めるとある程度静か。
俺は懐かしさにうるうるして、顔を隠す。
「いや、まだ酒も入ってないのに涙脆くね?」
「ごめん……。城崎と付き合ったの、ここが始まりというか…。だから感極まっちゃって…。」
「おいおい…。そんな大事な店、一緒に行くの俺でよかったのかよ……?」
メソメソする俺を見て、涼真は苦笑した。
ビールと焼き鳥が5種2本ずつ運ばれてきて、涼真は焼き鳥を食べながら頬杖を付いた。
「で?泣き虫の綾人くんは、今どうなってんの?」
「うぅ…、泣き虫って言うな…。えっと……、俺土曜日に涼真の家出たじゃん…。」
「うん。」
「あの後実家帰って、でもやっぱ母さんには否定されてさ…、あの日のうちに東京戻ってきて、自棄酒して…。」
「おう…。」
「その後記憶ないんだけど、俺一人でゲイバー行ってたらしくて…、気づいたらホテルにいて…。」
「おぉ…?」
「俺の出張の日までホテル代払ってくれてて、払ったのが城崎のよく行くバーのママだったからおかしいって思って、ママに詰め寄ったら、城崎が俺のこと助けてくれたって知った…。」
「なんかすげぇな…。」
「城崎、浮気相手だと思ってた子にも会ってないって…。だから……、俺の勘違いだったら嫌だから、城崎と話そうと思って…。電話して、月曜から少しずつ話すようになった。あの子と会ってないって聞いて安心したからか、発作も起きなくて、今の所話せてる…。」
涼真は時々相槌を打ちながら、俺の話を真剣に聞いてくれた。
話終わった時、ニコって笑ってくれた。
「な?言ったろ?城崎は浮気するような奴じゃねぇって。」
「うん…。でも俺が見たの、なんだったのかな…。」
「うーん…。まぁそれは、城崎に聞いてみればいいんじゃねぇ?」
「そうだよな…。そうじゃないと、また勝手に誤解して拗れたら嫌だし。」
俺の勘違いで事態は広がってしまったのか、それとも本当に事実だったのか、そればっかりは確認しないとわからない。
もし浮気だったら、城崎が本当のこと言うとは思えないけど…。
「綾人、この数日で肌艶も良くなったよな。」
「うん…。飯、食えてるから。」
「マジ?」
「城崎が作り置きしてくれてるんだ。食事取れるようになってきたから、前より元気。」
「よかった……。俺本当に心配してたんだぞ?」
「うん。ありがとう。」
涼真は安心したようにクシャッと笑って、俺の髪をぐしゃぐしゃして喜んでいた。
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