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第703話
夜には城崎から電話がきた。
結局気になって部屋のことを聞いたら、たまたま俺との通話中に、ちゅんちゅんが次の日の段取りがわからないと泣きついてきただけだったらしい。
ホッとした俺は、心穏やかに残りの一日を過ごし、金曜の夜には城崎から東京に帰ってきた報告を受け、日を跨いで土曜日になった。
今日は心療内科を予約している。
閑静な住宅街にある、大きな一軒家のような綺麗なクリニックらしい。
ホームページや口コミを見て、優しそうな男の先生が院長をしていたからここに決めた。
歳は俺と同じくらいで、話しやすいかもと思ったのも一つの理由だった。
できるだけ落ち着けるラフな格好で、予約時間にクリニックへ着くように向かった。
「望月さんですね。こちらを受診されるのは初めてでしょうか?」
「はい。」
「診察券お作りしますね。順番にお呼びしますので、お掛けになってお待ちください。」
受付に保険証を出して、待合に座る。
予約制のクリニックだからか、待合には俺だけしかいない。
清潔感と安心感のある綺麗なところだ。
ナチュラルモダンな温かみのある雰囲気で、緊張していたのが少しだけリラックスできた。
「望月綾人さん、診察室へどうぞ。」
案内され中に入ると、いい意味で病院っぽくない、木目調で落ち着く雰囲気のある診察室だった。
「はじめまして、院長の渡瀬 です。よろしくお願いします。」
「お願いします。」
渡瀬先生は椅子から立ち上がって挨拶した。
偏見かもしれないが、医者って診察室の椅子に座って、「どうされました?」って聞く人が多いのに。
珍しいな。
「どうぞ、お座りください。」
先生は俺を先に座らせてから、椅子に座った。
「望月さん、本日はどうされましたか?」
「あ…、えっと……」
どうしたって…。
こういうとき、なんて言えばいいんだろうか。
風邪とかなら、喉が痛くてとか、咳が出てって言えばいいけど、心療内科ってなんて言えばいいんだ?
いきなり悩みを伝えていいのか…?
「すみません。答えにくい質問でしたね。今日は何に困って受診してくださいましたか?」
「あ……、その、恋人が…、好きなのに怖くて…」
「ゆっくりでいいですよ。」
先生はあまり焦らせることのない優しい口調で、俺の言葉を待ってくれた。
俺は深呼吸をして、頭の中で言いたいことをまとめる。
「……相手のことが好きなんですけど、触れられると過呼吸になったり、身体が震えてしまいます。それを治したくて受診しました。」
ちゃんと言いたいことが言えた。
まだ緊張していて手が震える。
「ありがとうございます。詳しくお話伺ってもいいですか?」
「はい。」
先生は綺麗な所作でノートに俺の言葉を書き記し始めた。
キーボードをタイプする無機質な音とは違って、なんだか落ち着く。
これも心療内科だからこその気遣いなのかもしれない。
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