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第704話

「過呼吸と震え以外に症状はありましたか?」 過去形…だから、今じゃなくてもいいのかな…。 言葉に詰まっていると、先生から言葉を切り出した。 「今はなくても困っていたことがあったなら、よければお聞かせください。」 「食欲湧かなくて、眠れない日が多かったです。」 「最近は治りましたか?」 「前よりも…。気持ちの問題だと思うんですけど…。」 「後程ゆっくり伺いますね。他には症状はありませんでしたか?どんな些細なことでも結構ですよ。」 尋問っぽくはなくて、本当に俺のこと気遣ってくれてるような聞き方。 先生の目に、面倒臭さとか、そんなものは見えなかった。 「一度だけなんですけど、幻覚と幻聴もありました。」 「それは辛かったですね。では、いつから、どのようなときにどんな症状が出るのか、具体的なことをお伺いしてもいいですか?できれば原因として思い当たることも一緒に。話しやすいように、望月さんの恋人の方はAさんとしましょう。」 「わかりました。」 俺は先生に全て話した。 一年付き合った恋人Aさんが、自分以外の人とキスをしているのを見てしまったこと、一緒にホテルへ入ったこと、同棲していた家からその人が出てきたこと。 そしてその頃から不眠と食欲不振が出てきて、Aさんに話しかけられたり、触れられたりすることに恐怖感を持ってしまったこと。 関係を修復したくて家に戻ろうとした時に、幻覚と幻聴が現れたこと。 最近やっと、Aさんとの関係が戻りつつあるが、その一歩が踏み出せないでいること。 先生は長い俺の話を真剣に聞いてくれて、俺は時々涙を流しながら、順を追って話した。 「望月さん、辛い中頑張ったんですね。」 「………」 「幻聴や幻覚があったのは、かなり心が追い詰められていた証拠だと思います。もしかしたら、色々な要素が重なってそうなってしまったのかもしれません。思い出したくないことと、その瞬間が重なって見えたりだとか。」 「………雨。」 そうだ。 あの日、突然雨が降ってきた。 ホテルに入って行く日もそうだった。 「条件が重なって、フラッシュバックしてしまったのかもしれませんね。家に帰ろうとしていた時なら尚更。でもお食事も睡眠も取れるようになって、Aさんとも少しずつ話せるようになってきたのは、大きな一歩だと思います。」 「はい…。」 「次はプライベートなことをお伺いします。お答えしたくないことは答えなくて結構ですよ。」 「わかりました。」 先生は家族関係、職業や仕事内容、交友関係、休日の過ごし方…、細かいところまで聞いてきた。 家族のことだけは、母さんと今折り合いが悪くなっていると濁して伝えてしまった。 今話した全て、俺が男と付き合っていることは濁して話したけど、先生は気づいたんだろうか。 「望月さん。」 「はい。」 「思い出したくないことまで思い出させてすみませんでした。でも、詳しいことをお話ししてくださったので、病名の診断はできます。お伝えしてもいいですか?」 "病名" その言葉にドキッとしたが、むしろ病気だと言われた方が楽だとも思った。 俺は深呼吸してから、首を縦に振った。

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