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第705話

「望月さんは一過性の精神病の可能性があります。」 「精神病……」 「安心してください。今回は幻覚や幻聴があったこと、大きなストレス要因が明確であることからその可能性があると判断しましたが、あくまで一過性で、ほとんどの方は予後良好、完全に回復する可能性が高いです。」 そう言われてホッとした。 専門的なことは分からないから、落ち着いて先生の話に耳を傾ける。 「Aさんと会った時に起こる過呼吸、いわゆる過換気症候群についても一時的なものかと思われます。今後の治療法ですが、まずはお薬を処方します。不安を和らげるお薬と、頓用で眠剤をお出しします。」 「はい。」 「抗不安薬の方は定期処方でお出ししますが、副作用で眠気が現れることが多いのでご理解くださいね。最近眠れるようになってきたと仰っていたので、眠剤は飲まなくても結構です。強いお薬なので、どうしても眠れない時に使ってください。どちらの薬も依存性がありますので、週に一回通院していただき、量を調整して短期間での内服離脱を図っていきます。」 「わかりました。」 「震えや恐怖心も、不安がなくなれば徐々に改善すると思います。確認ですが、望月さんはAさんと、これからもお付き合いを続けたいんですよね?」 「はい。続けたいです。そのために早く治したいです。」 「では、その方との関わりを増やしていきましょう。ゆっくりで構いません。怖いと思うのは誰しもが持っている感情ですから、少しずつ慣れていきましょう。」 慣れ…。 あ、そうだ。 大事なこと、聞かないと。 「先生…」 「どうされましたか?」 「Aさんから帰ってきてほしいって、ずっと言われてて、俺も帰りたいって思ってるんですけど、過呼吸になったりするのが不安で…。こんな状態でも、また、同棲始めてもいいんでしょうか…?」 「もちろんです。ただ、突然関わりを増やすと、望月さんに負担がかかるかもしれませんが…。」 「家庭内別居みたいな感じで…、ダメですか…?」 涼真に提案してもらった策。 ダメかな…? 恐る恐る先生の顔を見ると、ニコッと笑ってくれた。 「なるほど、いいですね。私には思いつきませんでした。Aさんも協力してくださるなら、とてもいいことかもしれませんね。」 「本当ですかっ?!」 「はい。まずは話すくらいにして、徐々に手を繋ぐ時間を作ってみたり、触れ合う時間を増やしていくのはどうでしょうか?」 先生の提案に、俺はパァッと心が明るくなった。 嬉しい。 城崎と元の関係に戻れる日は遠くはないかもしれない。 「それともう一つ、望月さん。」 「はい。」 「幻覚や幻聴が現れた時、家に向かう時と仰ってましたよね。」 「………はい。」 「同じことが起きないように、家に帰るときはAさんと一緒の方がいいかもしれません。望月さんは一人だとネガティブになりやすそうなご様子ですので。」 「……ありがとうございます。」 先生、この一時間で俺の性格まで分かったのか。 心療内科医ってすごい…。 「では処方箋をお出しします。次回は一週間後の土曜日、11時にご予約とっておきますね。」 「はい。」 「お薬は用法と用量をきちんと守ってくださいね。くれぐれも飲みすぎないように。」 「はい。ありがとうございました。」 診察室を出て、受付で精算してクリニックを出た。 少しでも明るい展望が持てたからか、受診前よりも気持ちはとても軽くなっていた。

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