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第706話

ホテルに戻って、処方された薬を飲んで、出張に向けて資料をまとめる。 この出張が終わったら言うんだ。 また一緒に暮らしたいって…。 真剣にパソコンと向き合っていたら、隣に置いていたスマホが光る。 画面に表示されたのは『城崎』の文字だった。 パソコンを閉じて、メッセージを見る。 『出張終わったけど、電話してもいいですか?先輩の声が聞きたいです。』 城崎は甲斐甲斐しく、俺に何度も連絡を寄越す。 たまには俺からするべきなんだろうか…? 通話ボタンを押すと、いつも通りワンコールも立たずに城崎は出てくれる。 『先輩っ!』 「おはよ…。」 『もうこんにちはの時間ですよ。なんなら夕方に近いし。まさか先輩、今まで寝てたんじゃないですよね?』 そんなわけあるか。 真剣に言ってそうな城崎の声に、思わず笑う。 「城崎は?疲れて寝てたんじゃないか?」 『朝からずっと、先輩のこと考えてましたよ。あ、そうだ。明後日また持っていこうと思うんですけど、何が食べたいですか?』 「いいの?」 『勿論です。明日も予定ないから、先輩の食べたいもの作っておきます。』 一緒にいないこと以外、前までと何ら変わりない会話にホッとする。 もしかしたら城崎は、こんな俺でもまだ好きで居続けてくれてるんじゃないかってポジティブなことを考える一方で、内心は呆れてるんじゃないかって、どうしても余計なことが頭にちらついてしまう。 だって俺は何もしてない。 城崎は何度も思いをぶつけてくれているのに、何一つ返せていないんだ。 『先輩…?』 「あ…、あぁ。えっと……」 『選べない?俺の知ってる先輩の好物、いっぱい作ってきていいですか?』 「うん…。」 城崎の提案に頷く。 俺は城崎に、こんな愛を確かめるみたいなことばっかりして、自分に自信のない表れだ。 『出張の準備できましたか?』 「え?あぁ、まぁある程度…。」 『本当は行ってほしくないんですよ…?蛇目さんとなんて、聞いてなかったし……。』 「あぁ、ごめん……。」 拗ねた声で話す城崎が愛おしい。 出張のメンバー振り分け、言ってなかったもんな…。 城崎のムスッとした顔が簡単に想像できて、口元が綻ぶ。 「城崎……」 『……へっ?!なんですか?』 「……やっぱ何もない。」 『え〜?!気になるじゃないですか!何?教えて?』 帰りたい。 城崎と一緒にいたい。 「来週の土曜日、空けててほしい…。」 『もちろんです!!一日中暇ですよ!』 「また連絡する。」 『待ってます!』 数分話して、通話を切る。 来週の金曜の夜に東京に帰ってきて、土曜日午前中クリニックに行って…。 そのまま迎えにきてもらえるかな…、なんて、都合良すぎる? 「あー…、勇気出せ…。頑張れ、俺。」 両手で自分の頬をパンっと叩いて喝を入れた。

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