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第707話
土曜の昼から処方してもらった抗不安薬を飲み始めた。
やっぱり薬っていうのは凄くて、今まで漠然と不安で満たされていた心が、少し穏やかになる。
今まではネガティブなことばかり考えていたのに、この週末は初めて心穏やかに過ごすことができた。
月曜日、出社するとデスクに紙袋が二つ置いてあった。
もしかしてこれ……。
中を覗くと、案の定大量のタッパ。
「城崎……」
「先輩、おはようございますっ!」
「食える量って言ったろ……。」
ハンバーグ、もつ煮込み、グラタン、オムライス、海老フライ、ブリの照り焼きにチキン南蛮、他にも副菜がたくさん。
確かに全部俺の好物。
でも俺、水曜日から出張だぞ…?
今日明日でこの量食えってなかなか…。
「うっわ、美味そう!なにこれ?」
「え〜?うわぁ!御馳走!食べたい!」
俺が困り顔をしていると、涼真とちゅんちゅんが寄ってきて、城崎の手料理を見て感嘆の声をあげた。
「駄目です!これ、先輩のために作ったんだから!!」
「え〜?こんなに食えないだろ。綾人水曜から出張だぞ?」
「そんなこと知ってますよ!!」
「いくらなんでもこれは食べれないですよ〜。城崎さん、いただきます♪」
「おい。おまえは彼女に作ってもらえよ!!」
「だから料理下手なんですって、俺の彼女〜。」
タッパをいくつか持っていこうとする涼真とちゅんちゅんを、城崎は必死に止める。
全部食べたい気持ちは山々だけど、二日で食い切れる自信はないし…。
「昼、みんなで食べない?」
「「えっっ!!」」
涼真は最近いつも一緒に食べてるけど、城崎とちゅんちゅんは目を輝かせて俺を見た。
「やったー!!」
「お前食いすぎんなよ?」
「えー!こんなのいっぱい食べちゃいそうです〜!」
ちゅんちゅんの世話係は…、涼真に任せていいか。
城崎は少し困惑したような顔で俺をみる。
「いいんですか…?」
「何が?」
「お昼…、ご一緒して……。」
話してても過呼吸や震えは今の所出ていない。
これなら城崎といても平気だと思う。
それに、涼真もちゅんちゅんもいるし。
「……いいよ。」
「マジか…。……っしゃ!やった!仕事頑張ります!!」
城崎は花が咲いたような笑顔で、両手をあげて喜んだ。
普段、職場でそんな無邪気な表情は見せたことがないから、部署内がざわつく。
「ほら、もう始業時間なるから。席付きな。」
「はい!」
わんこ城崎、久々に見た。
また尻尾の幻覚が見える。ブンブン振ってる。
昼になる頃には、"城崎が超ご機嫌でワンコみたいだった"という情報が社内女性職員間で広まっていた。
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