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第709話
そして水曜日。
連泊したホテルとも今日でおさらば。
荷物をまとめてキャリーに詰め、出張に使わない荷物は涼真の家に預けさせてもらった。
東京駅に着くと、既に集合場所に蛇目の姿があった。
「主任、おはようございます。今日から三日間、よろしくお願いします。」
「こちらこそ宜しく。じゃあ行こうか。」
蛇目は騒がしい俺の周りの人たちとは違って、落ち着いていて大人の雰囲気を醸し出している。
後輩といえば、普段ちゅんちゅんや蛙石を相手にしているから、全然雰囲気が違う。
新幹線の車内でも、蛇目は静かに小説を読んでいて、俺は何も持ってきていなかったから暇だ。
話しかけていいものか迷いながら、気になって話しかけてみる。
「蛇目はどんな小説読むんだ?」
「ご興味ありますか?」
「うん。なんか城崎も小説読んでるときあるんだけど、内容難しくて。でもなんか蛇目の方が難しそうなの読みそうだな。」
「ふふ。そんなことないですよ?読んでみますか?」
蛇目は不敵な笑みで俺に本を手渡す。
なんだろ?
メジャーな作家さんのなら読めると思うんだけど。
ぱらぱらとページを捲って、俺は思わず本を閉じた。
「なんだよ、これっ…!?」
「ふふっ…(笑)官能小説です。見たことないですか?」
「ねぇよ!おまえ、普段あんな涼しそうな顔して、こんなの読んでるのか?!」
「普段から読んでるわけではないですよ。今ハマってるんです。作者によって表現が様々で…。面白いですよ?」
蛇目は俺の反応を見てくつくつ笑う。
絶対揶揄って楽しんでるだろ…。
「いい、読まない。お前こんなの読んでて、仕事に支障きたすなよ?」
「心配無用です。切り替えは得意ですから。」
「そうかよ。」
すごいな。
俺だったら絶対無理。
なんかよからぬ妄想して勃っちまいそうだし…。
「長旅になるのに、何もお持ちになってないんですか?」
「いつも話してたらすぐだからな。」
「じゃあお話します?」
「それ読むんだろ?」
「小説はいつでも読めますし、主任とはお会いできる時間が限られているので、私は主任がいいなら是非お話したいです。」
「いいのか?」
「ええ、もちろん。」
蛇目って本当、気が利くというか…。
蛇目の気遣いに甘えて、俺は世間話を始めた。
社会情勢から職場の人間関係、あとは蛇目の前の職場のこととかまであれこれ。
知らぬ間に俺は寝落ちていたらしく、蛇目に起こされた頃には福岡に着いていた。
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