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第711話
出張二日目も順調に契約を結び、日が暮れ始めた。
残すは一日だけど、明日は午前中フリーで、午後にアポ取ってる会社をいくつか回って帰るだけ。
順調すぎてノルマは既に達成しているし、肩の荷が降りた。
「主任、今日は飲んでいきませんか?」
「あー……。」
飲みたい。
けど…、抗不安薬飲んでるからお酒は控えないとだし、そもそも城崎以外と飲むなって言われてるしな……。
「遠慮しとく。」
「また城崎くんですか?」
「あー、まぁ…。それもある。」
「いいんじゃないですか?今日くらい。」
「んーでも…」
ちょっとだけならいいのかな…?
ノンアル飲めばいいか。
蛇目もこの二日頑張ったから奢ってやりたい気持ちもあるし、あと少し相談もしてみたいし…。
「飲まなくていいなら。」
「主任に付き合っていただけるだけで幸せです。」
「そうかよ。」
蛇目に連れられてホテル近くの小洒落たバーに入る。
いろんなお酒が並んでるけど、俺はノンアルコールのカクテルを注文した。
「では、お疲れ様でした。」
「お疲れ様。」
チンッとグラスを合わせ、乾杯する。
甘。ジュースみたいだな。
まぁノンアルだからジュースみたいなもんか。
「主任、今日はプライベートなお話してもいいですか?」
「突然だな。そういうのって、飲み明かしてからポロッと出すもんじゃねぇの。」
「世間話は新幹線でたくさんしましたし、仕事の話ももう疲れたでしょう?」
「それもそうだな。」
俺も相談したいと思ったものの、いつ切り出すか悩んでたし。
蛇目から言い出してくれて、逆に助かったかも。
「いいよ。何が聞きたいんだ?」
「主任は城崎くんが初めてなんですか?」
「ぶっ…!い、いきなりだな…。」
そういう話になるとは思ってたけど、つなぎの部分なしにいきなり本題にくるのは想定外で、俺は思わず口に含んだカクテルを吹き出してしまった。
慌ててハンカチで拭いていると、蛇目は話を続けた。
「気になってたんです。あ、もちろん同性との付き合いがってことですよ?でも、きっと初めてですよね。」
「なんで分かんの?」
「だって主任、俺には城崎くんだけ、城崎くんしか知らないって顔に書いてありますから。」
なんか…、似たようなこと那瑠くんにも言われたな…。
「それってダメなこと?」
「いいえ、素敵なことだと思いますよ。でも私の方が愛してあげられるんじゃないかと思ってしまう時だってあります。」
「ふーん…。」
「まぁ主任にその気がないのは分かってるんですけどね。」
蛇目のグラスがカラン…と音を鳴らす。
もう一杯飲み終えたのか。
「ペース早いな。」
「お酒は強いもので。」
「そっか。」
マスターは新しいお酒を注ぎ、蛇目の前に置いた。
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