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第712話

「蛇目はいつからなの?」 俺も蛇目に質問した。 会社で公言するほどって、ここ最近自覚したわけじゃないと思うから。 どうしたら、そんな堂々と胸を張れるのか知りたかった。 「ゲイを自覚した時期ですか?そうですね…、小学生くらいですかね。」 「早いな。」 「初めて好きになったのが、小学校の担任の先生だったんです。男のね。」 「どうなったんだ?」 「もちろん、誰にも言わずに終わりましたよ。その先生、結婚してしまいましたし。」 小学生なんて、俺はまだ何も真剣に考えていなかったと思う。 もしかしたら、俺の周りにもいたのかもしれない。 蛇目のように自覚していたとしても、周りの反応が怖くて言えない人が。 「性的マイノリティってさ…、自分に関係ないものと思いすぎて、真剣に考えたことなかったんだ…。」 「まぁ、普通はそうかもしれませんね。」 「城崎に告白された時、別に嫌悪感はなかったんだよ。城崎が俺のこと好きだから気持ち悪いとか、そんなことは一切思わなかった。」 「私たちはそう思ってもらえるだけで救われますよ。」 「うん…。俺、城崎のこと好きになってさ、付き合って…。でも実際、周りの目ばっかり気にして、結局それって、俺が偏見持ってるからなのかなって…。」 人前で手を繋いだり、お揃いのものを身に付けたり。 女の子と付き合ってた時は周りの目なんか一切気にしていなかった。 俺は俺自身に、無意識に差別してたんじゃないかって。 那瑠くんにそう言われた気がして、ずっと考えてた。 「主任、当たり前だと思いますよ。」 「え…?」 「人にどう思われるかって、そりゃ怖いですよ。私たちは昔から自覚してるから、もうそんな目には慣れてしまってるだけです。主任は今まで女性が好きで、初めてこの世界に踏み込んだ。」 「うん…。」 「怖いって感情は誰にだってあります。新しいチャレンジに踏み止まってしまうのは当たり前です。いいじゃないですか。好きな人を守りたい。ひっそりと二人で過ごしたい。それだって一つの形です。私みたいに昔から自覚してる人でも、隠してる人はたくさんいます。堂々とすることだけが全てではないと思いますよ。」 そっか…。 そうだよな。 城崎だって、俺を守るために隠してくれてた。 俺だって……。 「主任は偏見を持ってたんじゃないですよ。守ってたんです、城崎くんとの関係を周りに壊されないように。大事に大事に守ってきたんですよ。」 「……うん。」 「偏見を持ってたら、城崎くんとお付き合いなんて到底できませんからね。」 「………うん。」 蛇目の言葉はストン…と俺の胸に落ちた。 俺は城崎と離れたくなかったから、守ってたんだ。 好きだから。城崎と一緒にいたかったから。 自分でも気づけなかった自分の気持ちを、第三者に肯定されたのは、涙が出るほど嬉しかった。

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