713 / 1069

第713話

蛇目は三杯目のウイスキーを頼む。 俺もカクテルをおかわりして、ちまちま飲んだ。 「ゲイって公言しているとね、よく周りから言われるんです。」 「なんて言われるんだ?」 「男同士の恋愛なんて、子どもも生まれない、結婚もできない、不毛だって。」 「…………」 「でもね、不毛な恋愛でもよくないですか?私たちは幸せなんだから。」 涙が出そうになった。 母さんに言われたとき、俺は城崎と過ごしてきた時間を全て無駄だと否定された気がした。 違うんだ。 不毛でも、俺たちにとっては意味のある時間だったんだ。 だって、幸せだったんだから。 「……グスンッ」 「主任…?」 「ごめん…」 「えぇ…?泣き止んでください、主任…。」 蛇目と話してよかった。 那瑠くんや母さんに言われて勝手にネガティブに捉えて落ち込んでいたのは、きっと俺が弱かったからだ。 「すごいな…、蛇目は……」 「そうですか?」 「俺、今日この数十分だけで、おまえにすげぇ救われた…。」 「主任の嬉し泣きが見れるなんて、私は運がいいですね。」 「……蛇目、ありがと…」 ハンカチで涙を拭く。 俺、母さんにも向き合えるかもしれない。 何度でも伝えて、ちゃんと認めてもらいたい。 俺と城崎の紡いできた時間は無駄なんかじゃないって、分かってほしい。 「元気出てきた…かも…。」 「うんうん、いいですね。ほら、主任も飲みましょう!」 「おう。」 ちょっとくらいいいよな? 蛇目が注文した綺麗な色のカクテルが、俺の前に提供される。 「いただきます。」 クイッ…と一気に煽った。 わぁ……。 めちゃくちゃ度数高い…。 「主任っ?!」 「…………じゃのめ…」 「度数高すぎました?!すみません…。部屋、戻りますか?」 「うぅ……。」 頭が痛い…。 眠い…。 気づけば温かい背中に体重を預け、俺は眠っていた。

ともだちにシェアしよう!