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第716話

土曜日の朝、城崎から電話がきた。 大きく深呼吸をしてから、応答ボタンを押す。 「もしもし…。」 『もしもし、先輩?今いいですか?』 「うん。」 こんな朝からなんだろう…? 予定入った…とか…? 『今日、何時から会えますか?』 「え。あー…、午後になると思う。」 そういえば時間伝えてなかったっけ。 土曜日空けててほしいとだけ。 『お昼はどうしますか?先輩が食べたいものがあれば、作っておきますけど。』 「パスタがいい。」 『!!わかりました!最近練習してるパスタ、作っておきますね。』 「うん。予定終わったら連絡する。」 『あっ、待って!先輩、お願いがあるんですけど…』 「何?」 『電話がいいです。メールとかじゃなくて、電話で連絡してほしい。』 「うん。わかった。」 『じゃあ、電話待ってますね。』 城崎の声から、ご機嫌な様子が伝わってくる。 不安だったのが、今の電話で少しマシになった。 朝の分の薬を飲んで、洗濯を干して、涼真の朝ごはんを作る。 「おはよ。綾人早いな。珍しい。」 「涼真、おはよう。」 「誰かと電話してた?城崎?」 「うん。」 「本当、前までの震えてたのが嘘みたいだな。これなら大丈夫だろ。」 涼真の言う通りだ。 今の俺は城崎と話しても震えたり、過呼吸になったりしなくなった。 元に戻りつつある。 ただ違うのは、あのことがあってから、ネガティブに考えることが増えてしまったから、城崎の言葉一つ一つに不安や恐怖を覚えてしまう。 城崎ははっきりと俺に伝えてくれるから、その不安は最小限で済んでいるけど。 「今から心療内科行くんだっけ?」 「うん。11時から診察受けて、そのあと城崎に会う。」 「いよいよだな。」 「うん。涼真、本当にありがとう。お世話になりました。」 「今更照れるだろ。いいんだよ、いつでも頼って。」 涼真は恥ずかしそうに鼻を掻いて笑った。 時間になるまで、俺はキャリーケースの整理をしたり、最後に涼真の家のリビングを片付けたり、とりあえず考え込まないように何かに手をつけていた。 ふと時計を見ると10時を回っていて、俺はゴクリ吐息を飲んだ。 城崎に持っていて欲しいと渡された家の鍵をぎゅっと握りしめる。 「じゃあ、いってきます。」 「おう。いってらっしゃい。」 涼真に見送られ、俺はクリニックに向かった。

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