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第720話
城崎の匂いに包まれる。
安心する。
おそるおそる城崎の背中に手を回すと、さっき以上の力で抱きしめられる。
痛いのに、泣きそうなくらい幸せだった。
「城崎…、ごめん。また一緒に暮らしたい…。城崎は……、もう俺のこと好きじゃないかもしれないけど…っ、ごめんな…」
「何言ってるんですか…。」
城崎はムッとした顔で、俺の頬を両手で包む。
「好きに決まってるでしょ…。好きじゃなかったら手料理なんて渡さないし、あんなしつこく電話なんてかけないです。」
「そ……なの…?」
「地球が何周回っても、俺が先輩のこと好きじゃなくなる日なんて一生訪れないです。」
ぎゅーっと抱きしめられて、城崎の胸に俺の顔が埋まる。
城崎の匂いと体温に包まれて、緊張の糸が切れる。
「好き…。先輩、好き。愛してます…。」
「……うん。」
「ずっと先輩に触れたかった……。」
「……うん。」
「ずっと待ってました…。寂しかった……。」
城崎は少し鼻をグスグスさせながら、消え入りそうな声で呟いた。
胸がキュッとなって、城崎が愛おしくて仕方ない気持ちに襲われる。
髪を撫でると、城崎は俺の手首を掴んで、手のひらを頬に当てて見つめてきた。
「な…に……?」
「甘やかしてほしい。今日は甘えさせて…?」
「い…いけど…。」
「あー…、でも…、うん。話が先か…。」
城崎はしょんぼりして、名残惜しそうに俺の手を離す。
そうだよな…。
そのために帰ってきた。
城崎から、あの最悪だった日の真相を聞くために。
リビングに移動して、城崎は俺を椅子に座らせた。
「お腹空いてませんか?」
「空いた。」
「先に昼ごはんにしましょうか。材料買ってるので、ささっと作りますね。」
トントンと野菜を切る音や、ブクブクとお湯が沸騰する音。
自分がやるのではなく、ただこうして聞いているだけなのは懐かしい。
「クリームボロネーゼです。どうぞ。」
「美味そう。」
「お口に合うといいですけど。」
城崎は不安そうに俺を見つめているけど、城崎が作ってくれたのに、美味しくないわけない。
大好きな恋人が作ってくれたら、どんな料理だって美味しく感じるに決まってる。
「先輩、体重増えてきた?」
「うん。おかげさまで。」
「よかった。心配してたんですよ?」
「ごめんなさい…。」
全然食べられなかった時は、今より5kgは落ちてた。
見た目にも出てたから、本当に心配してくれたんだと思う。
パスタを完食して手を合わせると、城崎は俺の手を取り、ソファの方へ誘導した。
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