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第721話
城崎は俺をソファに座らせ、隣に腰掛けた。
手を繋いで、俺に目線を合わせる。
「先輩は、俺が浮気してると思ってたの?」
単刀直入にそう聞かれ、あながち間違ってはいないので首を縦に振った。
でもそれだけじゃない。
自分の考えの甘さを思い知って、色々解決しなきゃいけないことが増えたから。
「先輩、俺浮気してないよ。」
「…………」
「那瑠とあったこと全部話します。誤解を解きたい。もし気になったことがあったら全部答えるから。」
「…………わかった。」
聞きたいけど怖い。
無意識に体が強張って、顔も引き攣っている気がする。
城崎はそんな俺の緊張に気付いて、指を絡めて繋ぎ直した。
城崎はあのキスの日からのことを話してくれた。
Aquaで俺が酔って寝てしまったときに、突然那瑠くんが現れたこと。
口論をしていたら突然キスされて、タイミング悪く俺がその瞬間を見てしまったこと。
次の日、ラブホテルに呼び出されたこと。
城崎は断ったけど、その場所じゃないと会わないと、那瑠くんが譲らなかったらしい。
那瑠くんは俺に『ナツが本当にお兄さんのことだけが好きなら、来ないと思うから。』と言っていた。
俺には城崎が那瑠くんとラブホテルに行った事実だけしか見えてなかった。
でも、本当は城崎はちゃんと断ってくれてたんだ…。
「そのとき、もう俺たちと二度と関わらないって誓約書を書かせようと思ったんです。」
「………」
「中に入らないと書かないって言われて、ホテルに入りました。」
「…っ」
あのときだ。
身体が震え、目尻に涙がたまる。
城崎はすぐにそれに気付いて、俺を抱きしめた。
「何もしてません。本当に部屋に入っただけ。誓約書書かせて、すぐにホテルから出たんです。」
「本当……?触れてない…?」
「はい。……入る前に腕は組まれましたけど。すぐ引き離したし、その後は触れさせてないです。」
城崎は腕を組まれたのを思い出したからか、ムッとした顔をする。
そっか…。
俺は二人がホテルに入っていく姿を見てすぐに逃げてしまったけど、あの場で待っていたら誤解は解けていたのかもしれない。
「これが俺と那瑠の間にあったことです。他に気になること、ありますか?」
城崎は優しく俺に尋ねた。
俺の中には大きなモヤモヤが残る。
だって……。
「家……」
「家…?」
なんでとぼけるの…?
この家に那瑠くんがいたこと、隠そうとしてる?
「那瑠さん、来てない…?」
「え?………あ。玄関先までは来たかもしれません。」
「かも…?」
「はい。ホテルから出たとき大雨降ってて、傘を持ってなかったから走ったんです。そしたら誓約書が使いもんにならなくなって…。ごめんなさい、バカで……。だから誓約書書き直させたんです。」
「………」
それはいつの話?
家に呼ぶ必要はあったの?
あ…。城崎は熱出てたんだっけ…。
でも、玄関先なんて嘘じゃん…。
那瑠くん、裸だったもん…。
「先輩…?」
「ううん。なんでもない…。」
「たくさん傷つけてごめんなさい。でも、俺の気持ちは先輩にしか向いてないから。浮気なんてしてないです。信じて。」
「………うん。」
隠されていることにモヤモヤして、でもあの時のことを追究して自分が傷つくのが怖かった。
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