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第722話
「ねぇ、先輩。どうして俺がもう先輩のこと好きじゃないかもって思ったの?」
城崎はこの話は終わったと思ったのか、話題を変えた。
城崎が言ってるのは、多分さっき、また一緒に暮らしたいって言った時のことだ。
「だって……、ホテルに俺を運んでくれたとき、何もしなかっただろ…?」
ホテルで目が覚めたとき、俺は服はそのままで、髪もボサボサで、明らかに脱がされた様子はなかった。
それに尻の違和感もなかったから、もし服を着せられたんだとしても、最後まではシてないと思う。
城崎、絶対溜まってるはずなのに……。
俺じゃ欲情しなくなったのかと、あのとき俺は不安になったんだ。
「え……………。あー…………。」
城崎は視線を逸らして、歯切れの悪い声で呟く。
やっぱり俺なんかに…。
俯くと、城崎は言いづらそうに続きを答えた。
「だって先輩、俺と話したり、触れられただけで過呼吸起こしたりしてたのに、ダメでしょ……。」
「え…?」
「過呼吸って苦しいでしょ?先輩が苦しい思いするのは嫌だ。」
「城崎……」
俺のためだったんだ…。
城崎の言う通り、苦しかった。
好きなのに、話すだけで息が吸えなくなって、悲しくて苦しくて仕方なかった。
俺はそれが怖くて、城崎を避けていたこともあったし。
「あと拒否られたら、結構キツイし…。半分自分守るためってのもありました。」
「……ごめん。」
那瑠くんとのキスを見た後の話だよな…。
城崎のことが信用できなくて、慰めるみたいなキスが嫌で、全力で拒否した。
「もう大丈夫…?」
「えっと…、あー、そのことなんだけど…。」
「うん。」
「ここに戻る条件がある。」
いつまた発作を起こしてしまうかわからない。
先生の言う通り、少しずつ慣らしていく方が、俺も城崎もお互いが傷付かずに済むと思う。
「しばらくは必要以上に触れないでほしい。」
「え…。」
「城崎に抱きしめられて安心した。でも、いきなり前みたいなスキンシップの多さは、多分俺の身体がついていかない…。」
「…………」
「少しずつ慣らしていきたい。協力してほしい。」
「…………わかりました。」
城崎は渋々了承した。
すごく落ち込んでる。
悪いことしちゃったかな……。
「あと、家に帰るときは、今日みたいに一緒にいてほしい…。」
あのトラウマを克服するまでは。
また家に帰るまでにフラッシュバックしたら…。
そう思うと不安で仕方なかった。
「もちろんです。仕事は一緒に帰りましょう?先輩が出かけるときは、駅まで送り迎えもします。約束する。」
「うん…。ごめんな、迷惑かけて。」
「迷惑じゃないです。先輩と一緒に居れる時間が増えるなら、俺も嬉しい。」
城崎は俺を抱きしめようと手を伸ばし、そしてしょんぼりして手を下ろす。
多分、必要以上に触れるなって言ったから。
「ちなみに…、甘えるのもまた今度ですか…?」
「それは…、後でって約束したから、いいよ…。」
「!!」
城崎は目を輝かせて、ソファに座る俺の太腿に頭を乗せた。
俺は城崎の髪を優しく何度も撫でていた。
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