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第723話
こうして、俺は家に戻ってくることになった。
あのあと城崎は俺の膝枕でそのまま寝てしまって、俺もうとうとと眠ってしまった。
起きた時には夕方で、俺は足が痺れて動けなくて、城崎が謝り倒すっていうおかしな状況になっていた。
「先輩、お風呂先に入りますか?」
「うん。じゃあお言葉に甘えて。」
夜ごはんを食べ、リビングでのんびりしていたら、あっという間に21時を回った。
今までならテレビ見る時ですら抱きしめられてたけど、今日は隣に座って、触れるか触れないかの絶妙な距離感。
まるで両片思いの恋人になる前みたいな関係が擽ったい。
俺は告白されて、向こうの気持ちに気づいてから城崎のことをそういう相手として意識し始めたから、あまりこの擽ったい関係には慣れていなかった。
風呂で温まって、タオルで髪を乾かしながらリビングに戻ると、城崎はココアを淹れて待ってくれていた。
タオルを取られて、髪をくしゃくしゃと撫でられる。
「もうっ!何すんだよ?」
「俺が乾かしてあげる。」
「いいって。自分でできる。」
「何でもやってあげたいんです。いいでしょ?」
微笑んで首を傾げられる。
Noとは言えない。
嫌じゃないし…。
小さく頷くと、城崎は嬉しそうに俺の髪に触れた。
「先輩、俺と同じ匂いする。」
「……そりゃ、同じシャンプー使ってるから。」
「嬉しい。」
城崎は俺の髪に顔を近付ける。
多分匂いを嗅いでるんだと思うんだけど、キスされてるみたいで恥ずかしい。
ココアを飲んで、気を紛らわせる。
こんなに甘いの、久々すぎて胸焼けしそうだ。
「あとは自分でするから、城崎も風呂入ってこいよ。」
「えー。あとドライヤーかけるだけですよ?」
「風呂冷めたら風邪引くだろ。」
「むぅ…。」
城崎は拗ねながらも、風呂に入る支度をし始めた。
ドライヤーしに行こうと洗面所に行くと、城崎もついてきて、俺の髪に何かを振った。
「何?」
「保湿のトリートメント。ドライヤー前に振ってもいいんです。」
「いい匂い…。これ好きかも。」
「じゃあ俺も後で使おっと。」
「城崎のじゃないの?」
「拓磨さんと会った時に、新しい商品が入荷したから、先輩用にってくれたんです。」
城崎のかと思ったら、俺用だったらしい。
たしかに城崎の髪の匂いとは違うかも…。
「でも俺、いつもの城崎の匂い好きだよ?」
「どんな匂いか覚えてくれてるんですか?」
「うん。柑橘系だろ?」
「正解。なんか匂い覚えられてるって恥ずかしいですね…。」
覚えてるに決まってるだろ。
城崎の香水も、シャンプーの匂いも、なんなら体臭だって。
全部好きだし…。
「早く風呂入ってこい。」
「ここで脱ぐけど、いいですか?」
「…っ!出るから待ってっ!」
城崎の裸なんて何度も見たけど、改めて見るのはなんか恥ずかしくて、俺は洗面所から出て扉の前でへたりこんだ。
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