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第725話
眠剤のおかげでなんとか寝つけた。
床で寝たから体の節々が痛い。
グッと体を伸ばし、リビングへ行こうと扉を開けると、ゴンっと鈍い音がした。
「痛っ…」
「城崎?」
「先輩……、おはようございます。」
城崎は後頭部を摩りながらそう言った。
まさか扉の前で寝てたのか?
「なんで…?」
「いや、なんでって…」
「ちゃんとベッドで寝ろよ。風邪引くだろ。」
「先輩こそ。床で寝たんでしょ?」
「「…………」」
この言い合い、ゴールが見えない。
城崎に風邪引いてほしいわけじゃない。
涼真の言う通り、浮気の一つ大目に見てやればいいだけの話だ。
だけどやっぱり俺は欲張りで、城崎を独り占めしたいって、そう思ってる。
もう遅いのかもしれないけど…。
「とりあえず、今日はマットレス買いに行きましょう。」
「うん。」
「本当はベッドで一緒に寝たいんですけど。」
「………。」
一緒に寝たい気持ちは俺にだってある。
だけど、もし過呼吸になったら?手が震えたら?幻聴が聞こえたら?
そう思うと、どうしようもなく怖い。
「先輩、朝ごはんできたよ。」
一足先にリビングに行った城崎は、トーストと珈琲を用意してテーブルに置いた。
席に着き、用意してくれていた朝ごはんを食べる。
こうしてたら、前までと変わんないんだけどな…。
「俺も買おうかな。」
「何を?」
「マットレス。」
「なんで?勿体ないだろ。城崎はベッドで寝たらいいじゃんか。」
「それ、先輩が言います?」
「うっ……」
そうだけど!!
いいじゃん…。自分で買うんだし……。
城崎は俺をじっと見つめて、文句言いたそうにしている。
「一番安いの買うから…。そんな怒んないでよ…。」
「は?先輩を安物のマットレスになんか寝かせるわけないでしょ。」
「じゃあどうしたら城崎は納得してくれるんだよ?」
「一緒に寝たら解決するんですけど。」
「だから、それは無理なんだって!」
城崎のわからずや。
喧嘩したいわけじゃない。
俺だって城崎と早く元に戻りたいんだよ…。
そのために、少しずつ体慣れさせてるだけなのに…。
背を向けると、後ろから抱きしめられた。
「だ…っ?!いきなりそういうのはやめてって言…」
「ごめんなさい。」
「……へ?」
「俺、焦ってる。先輩が安心できるまで待つつもりだったのに…。ごめんなさい。嫌いにならないで…。」
さっきまでの威勢はどこに置いてきたのか疑問になるくらい、城崎は弱々しくそう言った。
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